
「ジュースを少し高く売れば、文化祭の利益も増えるはず」。そう考えるのは自然です。でも、値段を上げると買う人が減るかもしれません。逆に値段を下げればたくさん売れても、材料代が残らないかもしれません。
この二つを一緒に考えると、値付けの問題は二次関数の実験になります。ここでは実際の販売データではない、計算練習用の架空のお店を作ります。値段、販売数、材料費を動かしたときに、利益がどう変わるかを調べてみましょう。
売上が増えても、利益が増えるとは限りません
文化祭で飲み物を売ることにします。1杯を200円で60杯売れば、売上は12,000円です。1杯を300円で40杯売っても、売上は12,000円です。売上だけを見ると同点です。
では利益も同じでしょうか。1杯当たりの材料費が80円で、看板や容器の準備などに1,600円かかったとすると、200円のときの利益は (200−80)×60−1,600=5,600円 です。300円のときは (300−80)×40−1,600=7,200円 になります。
同じ売上でも、販売杯数に応じて材料費が変わるため、残る利益は異なります。「売上を最大にする」と「利益を最大にする」は、別の問いなのです。
ここで使った材料費は、売れた分だけかかる費用として扱っています。もし仕入れを先に全量購入し、売れ残りを廃棄するなら、別の計算が必要です。実際の文化祭の予算を作るときは、まず費用の発生条件を確かめてください。
値段と販売数の関係を、あえて簡単な式にする
実際の客数は、天気、味、競合する模擬店、時間帯などによって変わります。正確な予測は簡単ではありません。今回は値段だけに注目するため、架空の条件を決めます。
値段を10円単位で表し、p=20 なら200円、p=30 なら300円とします。販売杯数を 100−2p と仮定しましょう。これは「値段を10円上げるたびに、販売数が2杯減る」という実験用の設定です。現実にこの法則が成立するという主張ではありません。
この条件なら、200円では60杯、250円では50杯、300円では40杯になります。値段を変えたときの利益を、次の表で比べられます。
| 1杯の値段 | 販売杯数(仮定) | 売上 | 材料費 | 利益(準備費1,600円を含む) |
|---|---|---|---|---|
| 100円 | 80杯 | 8,000円 | 6,400円 | 0円 |
| 200円 | 60杯 | 12,000円 | 4,800円 | 5,600円 |
| 250円 | 50杯 | 12,500円 | 4,000円 | 6,900円 |
| 290円 | 42杯 | 12,180円 | 3,360円 | 7,220円 |
| 300円 | 40杯 | 12,000円 | 3,200円 | 7,200円 |
| 380円 | 24杯 | 9,120円 | 1,920円 | 5,600円 |
| 480円 | 4杯 | 1,920円 | 320円 | 0円 |
250円の売上は300円より大きくても、利益は300円のほうが多くなります。また200円と380円は、販売数も売上も違うのに利益は同じです。この「違う値段で同じ利益になる」という性質が、二次関数の形につながります。
利益の式を作ると、山の頂上が見えます
利益は、(販売価格−1杯の材料費)×販売数−準備費 と表せます。今回の条件を使うと、値段が 10p 円、材料費が80円、販売数が 100−2p 杯です。
したがって、利益を P 円とすれば、
P=(10p−80)(100−2p)−1600
展開すると、P=−20p²+1160p−9600 です。平方完成して、
P=−20(p−29)²+7220
となります。(p−29)² は0以上なので、利益が最も大きいのは p=29、つまり290円で7,220円になると分かります。これがこの架空モデルでの答えです。
なぜ二次関数になるのでしょう。「値段を上げる」と「販売数が減る」という、どちらも値段に応じて変わる量を掛け合わせたからです。利益の山は、二つの動きがぶつかる場所を表しています。
ただし、数量がマイナスになるような値段を式に入れるのは現実的ではありません。今回の設定なら販売杯数が0以上になる 0≦p≦50 を考える範囲とします。さらに10円刻みでしか値付けしないので、p は整数です。計算だけなら連続した曲線を描けても、実際に選べる価格には制約があります。
条件を変えると、正解も変わる
今度は材料費が80円ではなく120円になったと考えてください。利益は P=(10p−120)(100−2p)−1600 です。平方完成すると P=−20(p−31)²+5620 なので、最適な価格は310円に移動します。
これは「材料費が上がったら必ず値上げするべき」という現実の経営助言ではありません。販売数の減り方が同じだと仮定した場合の計算結果です。材料費が変わると商品の品質や需要も変わるなら、その変化を別に考えなければなりません。
また、準備費だけが増減する場合、今回のモデルでは曲線全体が上下に動きますが、最大になる価格は変わりません。この違いから、費用には「売るほど増えるもの」と「売れなくてもかかるもの」がある、と見えてきます。
グラフにする前に、答えを予想してみましょう
次の三つを考えてから、付属の実験ページを操作してみてください。
問い1: 値段を290円から300円に上げたら、利益は増えますか。それとも減りますか。計算すると7,220円から7,200円へ、20円減ります。
問い2: 材料費だけを高くしたら、最大利益を生む値段はどちらに動きますか。今回の条件では、材料費80円のとき290円、120円のとき310円です。
問い3: 値段を下げても販売数が変わらない店なら、同じ二次関数になりますか。なりません。販売数を一定とすれば、利益は値段について一次式になります。
これは、数学で習った式を文化祭へ当てはめただけの話ではありません。まず現象を分解し、変わる条件と変わらない条件を決め、式の結果をもう一度現実の条件へ戻しています。
「あたまの道具箱」の思考OSでいう制約を置く、仮説と検証、理解OSでいう数式化は、この順に考えると実際の問題で使いやすくなります。式の計算が正しくても、最初に決めた仮定が現実と違えば、値付けの答えは現実に合いません。そこまで含めて、二次関数の使い道です。
まとめ:計算が教えてくれるのは、答えだけではありません
この実験で得た290円は、架空の販売数の式に対する最適価格です。文化祭で実際に290円を付ければ必ず最も儲かる、という意味ではありません。
大切なのは「売上」「利益」「販売数」「費用」を混同せず、前提を変えたら結論がどう動くかを確認できることです。二次関数の頂点は、その作業を見える形にしてくれます。次に文化祭や商品価格の話を聞いたときは、値段の数字だけでなく、何を最大にしようとしているのかを確かめてみてください。
関連する「あたまの道具箱」の考え方
思考OS「制約を置く」、思考OS「仮説と検証」、理解OS「数式化」。今回の題材では、既存の考え方を具体的な問題に当てはめています。
操作して確かめる
記事の内容を自分で動かして試すには、文化祭の値付け実験を使えます。
関連するOS・記憶学
利益を大きくする価格は、販売数や費用についてどんな条件を置くかでも変わります。この見方を別の場面にも広げたいときは、思考OS 第8章「制約を置く」を読んでみてください。

