記憶学 記憶学Web版 序章 なぜ、子どもに「勉強」ではなく「覚え方」を教えるのか 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ夜の食卓を思い浮かべてほしい。 子どもが漢字の練習をしている。同じ字を十回書く。ノートには「謝」という字がきれいに並んでいる。あなたは横からのぞき込んで、「覚えた?」と聞く。子どもはうなずく。ノートを閉じさせて、口頭で聞いてみる。「じゃあ、しゃざいの『しゃ』、書ける?」 鉛筆が止まる。 さ... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第1章 「覚える」は、ひとつの動作ではない 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ引っ越しの朝だった。 段ボールは、ぜんぶ運び終えた。 荷物は、すべてこの部屋にある。 ひとつ残らず、ここにある。 それなのに、 ハサミ一本が、出てこない。 どの箱かは、わからない。 ないのではない。 あるのに、取り出せないのだ。 「記憶力がない」という言葉を、疑ってみる うちの子は記憶力が... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第2章 入れる ── 情報に、意味と映像を与える 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へはじめまして、と言われた。 名刺を、受け取った。 たしかに、名前を見た。 たしかに、顔も見た。 三分後、 もう名前が出てこない。 失礼にならないように、 「あの、すみません」と 聞き直すこともできないまま、 会話だけが進んでいく。 何度やっても覚えられないときに、この章で見ること 「覚えら... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第3章 残す ── 記憶は保存ではなく、手入れである 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ久しぶりに、実家に帰った。 自分の部屋が、そのまま残っている。 ベッドの位置も、カーテンの色も、 あの頃のままだ。 机の引き出しを、開けてみる。 何が入っていたか、思い出せない。 毎日、開けていた引き出しなのに。 部屋は残っている。 でも、道のほうが、消えかけている。 忘れることは、故障で... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第4章 取り出す ── 思い出すたびに、記憶は強くなる 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ「じゃあ、思い出してみて」 そう言った瞬間、 子どもの顔が、変わる。 さっきまで、笑っていたのに。 肩が、少し上がる。 目が、机の一点を見る。 まだ何も間違えていないのに、 もう叱られる準備をしている。 覚えたはずなのに思い出せないときに、この章で見ること 答えを見れば「知っていた」と思え... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第5章 場所は、忘れない ── メモリーパレス入門 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ十年前に住んでいた部屋を、 いまでも歩ける。 目を閉じれば、 玄関のドアの重さ。 三歩目で軋む、廊下の板。 換気扇の音。 窓から見えた、隣の家の屋根。 覚えようとしたことは、 一度もないのに。 あなたは、覚えようとしなかったものほど、覚えている ここまでの三章で、入れる・残す・取り出すとい... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第6章 物語の中でなら、子どもは覚える ── 物語型メモリーパレス 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ昨日の授業の内容は、 思い出せないと言う。 その同じ口で、 去年見た映画のあらすじを、 話し始める。 登場人物の名前。 裏切りの場面。 最後のセリフまで。 一度しか、見ていないのに。 子どもの記憶は、物語の形をしている うちの子は覚えられない、という相談を受けるたび、私はその子と少し雑談を... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第7章 100個の言葉を置く ── 家を増やし、記憶の住所を作る 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ十個、覚えられた。 目を閉じて、家の中を歩いて、 十個、ぜんぶ言えた。 子どもが、顔を上げて言う。 「ねえ、もっとできる?」 その一言を、 私は何度も待っていた。 十の次は、百関連して読む第5章 最初の10地点を作る第6章 地点で事件を起こす 前の章までで、子どもは十個覚えられるようになっ... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第8章 英単語 ── 音でつかまえ、映像で住まわせる 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ子どもの単語帳は、 角が折れている。 赤シートも、くたびれている。 「三周した」と、本人は言う。 嘘ではないのだろう。 でも、テストの余白には、 空欄が並んでいた。 三周、通り過ぎただけの道に、 住人は、いなかった。 英単語が覚えられないときに、この章で見ること 単語帳を何周しても残らない... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第9章 漢字・歴史・理科・算数 ── 見えないものを、見えるようにする 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へリビングのテーブルに、 漢字ドリルが置いてある。 その横に、歴史の一問一答。 理科のワーク。 算数のプリント。 教科が四つ。悩みも四つ。 親は、どこから手を付ければいいのか、 わからなくなる。 でも、よく見てほしい。 四つの山は、同じ形をしている。 漢字が覚えられないときに、この章で見るこ... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第10章 教えない勇気 ── 親の役割は、質問すること 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へその夜も、教えていた。 三回、説明した。 四回目で、声が大きくなった。 「なんでわからないの」 子どもは、下を向いた。 夜、寝顔を見ながら思う。 あんな言い方、 したかったわけじゃないのに。 明日こそ、穏やかに。 そう思って、また同じ夜が来る。 あの声は、悪意ではない 第4部は、技術ではな... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第11章 つまずきには、型がある ── タイプ別の処方箋 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ兄には、効いた。 変な絵を作ったら、 面白がって、すぐ覚えた。 同じやり方を、弟にやってみた。 固まってしまった。 「絵って、何?」 同じ家の、同じ食卓で、 同じ言葉を覚えるのに、 兄と弟は、 違う場所でつまずいていた。 同じ「覚えられない」の下に、違う子がいる ここまで渡してきた道具は、... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 第12章 最初の一か月 ── 小さく始めて、子どもに渡す 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ新しいことを始める日、 人は、張り切る。 初日に、二時間やる。 三日目に、一時間やる。 五日目に、忙しくなる。 七日目に、思い出さなくなる。 だから今回は、逆をいく。 初日から、五分しかやらない。 この一か月の、たった一つの目的 ここまでの章で、道具箱はいっぱいになった。三工程。枝。変な絵... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 終章 「自分は覚えられる」という記憶 2026年7月29日 『記憶学について』全体の目次へ夜の食卓に、もう一度、戻りたい。 序章の、あの食卓だ。漢字を十回書いた子どもが、ノートを閉じたとたん、何も書けなくなった。親の頭に「なんで」が浮かび、子どもは天井を見て、消しゴムをいじって、小さな声で「わかんない」と言った──あの夜である。 数か月後の、同じ食卓を想像してほしい。 同じ子ど... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 補章 道具箱の、残りの引き出し ── 本文に入らなかった勉強法たち 2026年7月30日 『記憶学について』全体の目次へ本文では、道具の数を、意図して絞った。道具箱が大きすぎると、人は箱を開けなくなるからだ。 ただ、世の中には、本書で渡した道具の「正式な名前」や、紙幅の都合で置いてきた「隣の道具」たちがある。名前を知っておくことには、実利がある。名前があれば、自分で調べられるし、AIに聞くときの検索語になる... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 巻末付録 2026年7月30日 『記憶学について』全体の目次へ付録は、本文とちがって「読むもの」ではなく「使うもの」です。コピーして冷蔵庫に貼る、書き込む、スマホで撮っておく──好きなように使ってください。 付録1 自宅パレス作成シート関連して読む第5章 メモリーパレス入門第7章 記憶の住所を作る シートA 最初の家(10地点) 自宅の中を、玄関から... ゆきむら
記憶学 記憶学Web版 参考文献・確認資料 2026年7月30日 『記憶学について』全体の目次へ本書は一般読者向けのため、本文中に細かな注番号を付していない。以下は、本書で扱った記憶・学習法の中心原理を確認するために参照した主な研究である。 検索練習・テスト効果関連して読む第4章 取り出す Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). ... ゆきむら
記憶学 記憶学|実践ケース 「全体→部分」を覚える|記憶学・実践ケース 2026年8月22日 「全体→部分」という言葉は知っている。 「先に全体を見るもの」くらいまでは分かる。 でも、 具体的に、何を見て、何をして、何が分かる道具? と聞かれると、うまく説明できない。 そんなときは、言葉そのものを何度も覚え直すより、中の動きを3つに分けて覚える方が使いやすくなります。 「全体→部分」で覚えたいのは3つ 何を見る... ゆきむら
記憶学 内容は覚えているのに、順番になると飛ぶ|Parent Memory Guide 2026年8月22日 発表の原稿は、だいたい覚えている。 何を話すかも分かっている。 でも本番になると、 「次、何だったっけ」 と順番が飛ぶ。 今回の発表では、話す内容が次の5つだとします。 海 失敗 師匠 転機 感謝 一つずつ聞けば話せる。 でも、最初から順番に言うと途中で止まる。 このとき、 「もっと全文を暗記しなさい」 へ行く前に、一... ゆきむら