
これだけ覚えよう
- 驚いたこと、うれしかったこと、悔しかったことは、あとまで覚えていることがある。
- 勉強でも、ただ答えを見るより、先に「たぶんこうだ」と予想すると、当たり外れで気持ちが動く。
- 「えっ、そうなの?」と思った知識は、その驚きごと覚えやすくなることがある。
- 好きなものや、自分に関係するものとつなげるのも一つの方法。
- 覚えたいことを全部感動的にする必要はない。少し「自分に関係ある話」にできれば十分。
記録係は、えこひいきする
初めて自転車に乗れた日の風を、覚えている。坂の途中で、後ろの手がもう離れていたことに気づいた瞬間まで。
なのに、先週の火曜日の昼食が出てこない。食べたはずなのに。
記録係は、公平ではない。
えこひいきの基準は、はっきりしている。
心が動いたか、どうか。
嬉しかった。怖かった。恥ずかしかった。驚いた。
その場面は、頼んでもいないのに、濃いインクで書かれている。
心が動かなかった一日は、同じ色の紙に紛れていく。
無感動な暗記が薄いのは、頭が悪いからではない。薄いインクで書いているからだ。
このえこひいきには、理由があるらしい。
大昔、覚え間違いは命に関わった。どの実で腹を壊したか。どの茂みに蛇がいたか。一度で覚えなければ、二度目がなかった。
だから、心が強く動いたときには、濃く書き残せという合図が出るらしい。
感情は、記憶の邪魔者ではない。インクの濃さを決めているほうだった。
では、机の上で、どう心を動かすか。
いちばん安いのは、驚きである。
「えっ、そうなの」
この一言が出た知識は、なぜか忘れない。
コツは、読む前に賭けることだ。
答えを見る前に、「たぶん、こうだろう」と決めておく。当たれば、嬉しい。外れれば、「えっ」が起きる。どちらに転んでも、心は動く。
ただ読む人と、賭けてから読む人では、同じ一ページのインクの濃さが違う。
好きな分野なら、いくらでも覚えられる。
ゲームのキャラクター。推しの誕生日。贔屓のチームの選手名。
外から見れば、才能に見える。
けれど好きなものの前では、心が動き続けている。インクが、濃いまま流れ続けている。
苦手な科目を丸ごと好きになるのは難しい。でも、その中に一人だけ推しを作ることはできる。
歴史が退屈なら、誰か一人を選ぶ。その人が負けた戦を、少し悔しがってみる。
一点から、インクは滲んで広がる。
もうひとつ、強い照明がある。
「もし、自分だったら」
幕末の判断を読むとき、その席に座ってみる。裏切るか、耐えるか。
心理学の言葉を読むとき、去年の自分に当てはめてみる。あのとき、なぜあちらを選んだのか。
他人事は、暗い客席で観る芝居だ。自分事は、舞台の上である。
同じ話でも、当たっている光の量が違う。
先週の火曜日の昼食は、薄い紙のまま、束の中へ紛れた。
それで困らない記憶もある。
覚えておきたいものの前でだけ、先に賭けて、推しを作って、舞台に上がる。
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