
これだけ覚えよう
- 始める前に、「どんなときは止める・変える・助けを求める」を決めておく。
- 山なら「2時になったら頂上が近くても戻る」のように、元気なうちに引き返す条件を決める。
- 仕事でも、「ここまでに人が増えなければ範囲を半分にする」のような線を先に置ける。
- 疲れてから決めると「あと少しだから」と無理を続けやすい。
- 逃げ道は、簡単に諦めるためではなく、安心して始め、また次も挑戦できるようにするために作る。
引き返す時刻
登り口で、その人は頂上の話をしなかった。
腕時計を見て、二時、と言った。
二時になったら、どこにいても引き返す。頂上が見えていても、あと十分に見えても、そのとき向きを変える。そう決めてから歩き出した。
途中では決めないんですか、と聞いた。
途中だと、あと少しに見えるから、と返ってきた。
置いていたのは、時刻だけではなかった。
空の様子が変わったらそこで止まる。誰かの足が重くなったら、行き先を手前のところへ変える。自分たちだけで戻れないと思ったら、その前に人を呼ぶ。
止まる、変える、小さくする、頼む。四つとも、歩き出す前に口に出していた。
置いてあるから、登り始められる、とも言っていた。
置かないまま登ると、決めるのは途中になる。途中の自分は、朝の自分より疲れている。
仕事も、同じ形にできる。
引き受ける前に、どこで止めるかを一行だけ書いておく。この日までに人が増えなければ、範囲を半分にする。三週続けて土曜が埋まったら、いったん止める。誰に言うかも、先に決めておく。
書いておくと、開始が軽くなる。
軽くなる理由は、途中でやめてよいからではない。やめる判断を、疲れていない今日の自分がしているからだ。
引き返した人を、負けた人とは呼ばない。
その人は、翌月も同じ山に来ていた。引き返した日があったから、また来られている、と言った。
決めておいた時刻には、たいてい、まだ余力がある。
余力があるうちに向きを変えるのは、もったいない感じがする。
その、もったいない感じのことを、先に知っておく。
知っていれば、時刻が来たとき、それは予定どおりの感じだと分かる。
下りの途中で、上を見る。
まだ明るい。
明るいうちに降りると決めたのは、明るいうちだった。
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