
これだけ覚えよう
- 覚えたものを、「あとで自分がどんな言葉で探すか」に合わせて置いておく。
- 屋根を直してくれた人なら、会社名だけでなく「雨漏りの人」と覚えたほうが思い出しやすいかもしれない。
- 正式な名前より、自分が思い出すときに使う言葉のほうが役立つこともある。
- 一つのものを、二つ以上のグループに入れてもいい。
- 覚えるときだけでなく、「あとでどう探す?」まで考えておく。
雨漏りの人
台所の下から水が出てきた日、電話帳を開いて、手が止まった。
去年、屋根を直してもらった人がいる。名刺ももらった。連絡先にも入れてある。
入れてあるのに、出てこない。
「あ」から順に見ていく。会社名の一覧が並んでいる。工務店、建設、住宅、設備。どれも似た名前で、どれがあの人か分からない。二年前の自分は、名刺に書いてあるとおりに登録した。正しく登録した。
正しさは、いま何の役にも立っていない。
こちらが困ったとき、最初に頭に浮かぶのは、社名ではないからだ。浮かぶのは、「屋根の人」である。もっと言えば、あの日のことしか浮かばない。雨が入ってきて、天井に丸い染みができて、来てくれた人が長い梯子を持っていた。
見つけるのに三十分かかった。
その日のうちに、登録し直した。
「屋根 雨漏り 梯子の人(山下工務店)」
美しくない。名刺とも一致していない。会社の正式名称は括弧の中へ落ちた。
でも、次に天井を見上げたとき、こちらの口は「雨漏り」と言う。だから、そこに置いた。
置き場所は、そのものの正しい姿から決めるのではなかった。次に探しにくる自分が、最初に何と言うかで決まる。
このやり方には、困ったところがある。
同じ人が、二つのことで浮かぶ。屋根の人であり、実家の近所の人でもある。どちらの言葉で探すかは、そのときの用事による。だから、どちらにも入れておくしかない。片方に決めると、決めなかった側から探しにきたときに、また三十分かかる。
一つのものが一か所にしかないほうが、整って見える。整っている台帳のほうが、たいてい引きにくい。
もう一つ、困ったところがある。
言葉は変わる。
十年後の自分が「雨漏り」と言うとは限らない。あのとき天井にできた丸い染みも、そのころには忘れている。そうなったら、そのときの言葉で入れ直すことになる。
置き場所は、一度決めて終わりにならない。使う側の口が変われば、置き場所も変わる。
いま、電話帳には、名刺どおりの名前と、こちらの言葉でつけた名前が混ざっている。
前者は整っていて、後者は汚い。
汚いほうが、雨の日に出てくる。
この考え方を普通の言葉で読む
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