記憶OS 第11章|比較記憶

これだけ覚えよう

  • 似ていて間違えやすいものは、違うところを見つけて覚える。
  • そっくりな二本の鍵なら、「片方だけ小さな傷がある」のような違いを探す。
  • 違いはたくさん覚えなくていい。見分けるのに役立つ印があればいい。
  • これは、そのものを詳しく理解するための方法とは限らない。「取り違えない」ための方法。
  • 混ざりやすい二つがあったら、「どこを見れば一発で見分けられる?」と探してみる。

小さな刻み

鍵が二本ある。

玄関と、物置。

同じ店で作ったので、頭の形も、色も、重さも同じだ。溝の形が少し違うが、その違いは、鍵穴の前で手のひらに乗せているあいだは見えない。

毎回、半分の確率で外す。

差し込んで、回らなくて、持ち替えて、もう一度差す。二秒で済む。二秒なので、そのうち直そうと思いながら、二年やっている。

ある日、外の光の下で、片方の頭に小さな刻みがあるのに気づいた。

浅い線が一本。作ったときに付いたのか、どこかにぶつけたのか、分からない。

物置のほうにある。

それから、外さなくなった。

このとき、二本の鍵について何か分かったわけではない。溝の形は、いまも説明できない。どちらがよくできているかも知らない。どこの店で作ったかも忘れた。

分かったのは、刻みがあるほうが物置、それだけだ。

一点しかないので、迷わない。二点あれば、どちらを見るかで迷う。三点あれば、三点とも確かめてから手が動く。二秒が三秒になる。

見分けの印は、増やすと効かなくなる。

そして、この印は、理解を一つも増やしていない。鍵について新しく知ったことは何もない。減ったのは、差し間違いだけだ。

それでいい。

こちらが困っていたのは、鍵を知らないことではなく、取り違えることだった。

いまも、二本を並べて見比べることはしない。

手が、刻みのないほうを取る。


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