虚数iは「存在しない数」なの? 90度の回転から複素数を考える

i²=−1 と教わったとき、「二乗してマイナスになる数なんてない」と感じる人もいるでしょう。確かに、実数の範囲では正の数を二乗しても負の数を二乗しても結果は0以上です。それなのに、新しい記号 i を持ち込む意味はどこにあるのでしょうか。

虚数を「不思議な数」として暗記する代わりに、平面上の点を90度回転させる操作として眺めると、i²=−1 の形が一つの絵につながります。ここでは計算で確かめながら進みます。なお「虚数」という名前は、数が役に立たないとか、数学的に矛盾するという意味ではありません。

実数だけでは答えがない式から始める

最初に x²=9 を考えます。答えは 3 と −3 です。どちらを二乗しても9になります。では x²=−9 はどうでしょう。

実数の範囲で二乗は負にならないため、実数の解はありません。そこで i²=−1 となる新しい数 i を定義し、3i と −3i を使えば、どちらも二乗して−9になります。

これは「今ある数を無理に計算して−1を作った」のではありません。実数を含む数の体系を拡張して、新しい演算規則を認めたのです。拡張してよいかどうかは、計算の規則が互いに矛盾しない形で組み立てられるかという数学の問題になります。

ただし、i は実数ではありません。実数の数直線に「−1より左にある」といった形で置くこともできません。そこでもう一つの方向を加えてみます。

数直線を平面に広げると、iの場所ができます

紙に横軸と縦軸を引いてください。横軸には普通の実数を置き、右向きを正、左向きを負とします。縦軸には i の倍数を置き、上向きが正、下向きが負です。

こうすると、1 は (1,0)、i は (0,1)、−1 は (−1,0)、−i は (0,−1) に表せます。2+3i なら横に2、縦に3進んだ点です。

このように、実数部分と虚数部分を組み合わせた a+bi を複素数と呼びます。平面は複素平面と呼ばれます。この表示のおかげで、複素数の足し算は、横方向と縦方向の移動をそれぞれ足すように考えられます。

例えば (2+3i)+(−1+2i)=1+5i です。横の成分が 2−1=1、縦の成分が 3+2=5 になります。地図の東西と南北を分けて足すのに少し似ています。

けれども、これだけではまだ、どうして i を掛けると回転になるのかは分かりません。次に掛け算を見ていきます。

iを掛けると、なぜ90度回転するのか

任意の複素数を z=a+bi とします。これに i を掛けると、分配法則と i²=−1 から、

iz=i(a+bi)=ai+bi²=−b+ai

になります。点の座標で見ると (a,b) が (−b,a) に変わっています。

例えば (2,1) にあった 2+i は、i を掛けると −1+2i、つまり (−1,2) へ移ります。横が2、縦が1だった点が、横は−1、縦は2になっています。これは原点を中心に反時計回りへ90度回した位置です。

どうして90度と言えるのでしょう。元のベクトル (a,b) と移動後のベクトル (−b,a) の内積を計算すると、a(−b)+ba=0 です。二つは垂直になります。また、長さの二乗は、もともと a²+b²、移動後も (-b)²+a² で同じです。長さを保ったまま直角に向きが変わるのです。向きは (1,0) が (0,1) へ移ることから反時計回りだと分かります。

i をもう一度掛けるとどうなるでしょう。i(−b+ai)=−a−bi となり、元の点 (a,b) の正反対へ移ります。90度回転を二回行うと180度回転する、ということです。

ここで 1 を出発点にすると、1 → i → −1 → −i → 1 と四回の掛け算で元の場所に戻ります。二回なら 1 → i → −1 です。これが i²=−1 を平面上の動きとして見る方法です。

iを掛けることと、90度回転することは本当に同じ?

次の三つを計算して確認してみましょう。

元の複素数 iを掛けた結果 座標の動き
3 3i (3,0) → (0,3)
1+2i −2+i (1,2) → (−2,1)
−2−i 1−2i (−2,−1) → (1,−2)

どの行でも、横の数と縦の数の位置が入れ替わり、片方の符号が変わっています。ただし、これは座標をただ入れ替えればよいという暗記ではありません。i²=−1 を使って実際に展開すれば、なぜそうなるかを確かめられます。

注意したいのは、どんな複素数を掛けても90度回転するわけではないことです。例えば −1 を掛ければ180度回転します。2i を掛ければ90度回転するだけでなく、原点からの距離が2倍になります。掛ける数が違えば、回転と拡大縮小の組み合わせも変わるのです。

また、複素数を平面で扱う考え方は、数学以外にも周期的な変化を計算する場面などで利用されます。ただし、個々の技術でどのように使われるかまで、この簡単な回転図だけから説明できるわけではありません。

90度ずつ動かす小さな実験

付属教材では、最初の点を自由に決め、i を1回、2回、3回、4回と掛けた位置を表示できます。例えば 2+i を選んだら、次の順に動きます。

2+i → −1+2i → −2−i → 1−2i → 2+i

これは四つの答えを暗記するための教材ではありません。どの点から始めても、同じ規則で四回後に元の点へ戻ることを確かめるものです。

もし「複素数は実在するのか」と疑問に感じたなら、「実在」を何の意味で使っているかも考えてみてください。机の上に i という物体があるわけではありませんが、それは負の数や座標についても似た問いを立てられます。数学では、ある体系の中で定義と計算規則が整合的に使えることが大切です。

まとめ:i²=−1は、二回の回転としても読めます

虚数 i を導入すると、実数だけでは解けなかった式を扱えるようになります。複素平面では、a+bi を点 (a,b) に表し、i を掛けると (−b,a) に移ります。つまり長さを保った反時計回り90度の回転です。

この理解は、学校で学ぶ代数計算を置き換えるものではありません。式を展開して確かめる方法と、図形として見る方法の二つをつなぐものです。

理解OSの**「具体と抽象の変換」や「図式化」**を使うとしたら、まさに同じ内容を式と図の両方で表す場面です。記号の意味がつかめないときは、「この式は、図にしたら何が動いているのだろう」と問い直してみてください。

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操作して確かめる

記事の内容を自分で動かして試すには、虚数iの回転実験を使えます。

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