記憶OS 第5章|ストーリー記憶

これだけ覚えよう

  • 順番を覚えたいものは、一つの短い話につなげると覚えやすくなることがある。
  • 「歯を磨く → トイレ → 水を飲む → 電気を消す」を、クマが順番にする話にしてみる。
  • 一つずつ別々に覚えるより、前の出来事から次の出来事が出てくる形にする。
  • 話は本当でなくてもいい。覚えたい順番が正しく入っていることのほうが大切。
  • 面白くしすぎて余計な話を増やさない。覚えるものが取り出せる短い話で十分。

クマは水を飲まない

寝る前にすることが四つある。

歯を磨く。トイレへ行く。水を飲む。電気を消す。

四つとも、毎晩やっている。それでも、五歳の子は毎晩どれかを落とす。歯を磨いてから電気を消し、暗い部屋でトイレへ行きたくなる。

順番に言ってごらん、と言う。言える。言えるのに、動くと崩れる。

四つが、四つのままだからだ。並べただけの四つは、どれから手をつけてもよさそうに見える。実際、どれからでもできる。だから毎晩、違う順に始まる。

ある晩、話にしてみた。

クマが歯を磨いている。磨き終わったクマは、トイレへ行く。出てきたクマは喉が渇いて、水を飲む。それから、部屋の電気を消して、寝る。

子はすぐに覚えた。翌晩、自分でクマの話をしながら、順に動いた。

覚えたのは、四つではない。一本の話である。

話には、途中から始められないところがある。喉が渇くのは、トイレのあとだからだ。磨いたばかりの口で水を飲むのは、話の中では少し変になる。四つのあいだに、前と後ろができた。

前と後ろができると、二番目を思い出すのに、三番目を通らなくてよくなる。一番目から順に、押し出されるように出てくる。

ここで、一つ、確かめておきたいことがある。

クマは実在しない。喉が渇いたのも、こちらが作った。順番の理由も、後から付けた。この話は、事実ではない。

それでも、四つは正しい順に出てくる。

物語は、正しさを運んでいるのではなく、順序を運んでいる。運んでいるものが順序だけなので、乗せるものが本当かどうかは、仕事に関係がない。

だから、話がうまくできているかどうかも、あまり関係がない。

うまくしようとすると、たいてい増える。クマに友達ができ、雨が降り、途中で誰かが訪ねてくる。増えた分だけ、四つは埋もれる。話が良くなるほど、順序は取り出しにくくなる。

必要なのは、四つが四つとも出てくる筋であって、面白い筋ではない。

半年経った。

子はもう、クマの話をしない。歯を磨いて、トイレへ行って、水を飲んで、電気を消す。

順番だけが残って、話のほうは要らなくなった。


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