
これだけ覚えよう
- 比べる前に、「何で比べる?」を決める。
- 同じ二つでも、値段で比べるのか、重さで比べるのか、使いやすさで比べるのかで答えは変わる。
- 「Aのほうが上」と言われたら、まず「何について上なの?」と考える。
- 二つを比べると、一つだけ見ていたときには気づかなかった特徴が見えることがある。
- 順位だけを見るのではなく、その順位を作った「ものさし」を見る。
何で比べる
実家から持って帰った包丁を、いま使っているものの隣に置いた。
刃の向きをそろえると、二本はずいぶん違って見える。片方は黒っぽく、片方は白い。だが、それは並べる前から知っていたことだ。
並べただけでは、まだ何も始まっていない。
持ち上げてみる。古いほうが、はっきり重い。重さという一本を机の上に置いたとたん、二本に順番がついた。重いほう、軽いほう。
順番はついたが、見えているのは重さだけだ。
刃渡りを当ててみると、ほとんど同じだった。さっきの順番は、ここでは何も言わない。この一本の上では、二本は並んで立っている。
背の厚みを見る。古いほうが厚く、爪で弾くと音が低い。
刃先の反りを見る。新しいほうが、先へ行くほど上がっている。
一本しか持っていなかったあいだ、この重さは重さとして感じられていなかった。それが包丁というものの重さだった。隣にもう一本を置いて、はじめて重さが手の中に現れる。差として現れたものは、それまでずっとそこにあって、透明だっただけだ。
軸によっては、机の上に置くだけでは立たない。どちらがよく切れるか、という一本がそうだ。持ち上げても、光に当てても出てこない。何かへ当ててはじめて目盛りが現れる。そういう軸を立てたときは、机から降りるところまでが比較になる。
同じ二本のまま、見えるものが入れ替わっていく。動いているのは包丁ではない。何を見るかと決めた、そちらのほうだ。
比較は、二つを並べた瞬間には始まらない。何で見るかを選んだ瞬間から始まっている。
最後に、刃元を見た。
どちらも、柄に近いところだけが深くくぼんでいる。同じ位置に、同じ角度で。
一本だけを見ていたあいだ、そのくぼみは、その包丁の形だった。二本目を隣に置いた瞬間、それは包丁の形ではなくなった。二本を研いできた砥石の、真ん中がすり減っている。
砥石は、この机の上にない。それでも、輪郭だけがここに出ている。
比較が見せるのは、上下だけではない。どちらの側にも属していないものが、二つのあいだから浮かんでくることがある。一本しか持っていなければ、それは透明なままだった。
やっかいなのは、軸を自分で立てないときだ。
誰かがすでに一本の軸を置き、その上に二つを並べ、順番だけを見せてくることがある。順番は目に入りやすい。軸は目に入らない。だから、順番のほうを覚えて、軸のほうを忘れる。
順番は結論の顔をしている。軸は結論より前に置かれたものなので、結論と一緒にはやってこない。
その順位は、どの軸で作られた。
そう聞き返した瞬間に、並んでいたものは一度ばらける。ばらけたところから、自分の見たい一本を置き直せる。
二本とも、引き出しへ戻した。どちらを使うかを決めるために出したのではない。
机の上に残っているのは、軸のほうだ。
何で比べる。
二つを載せるより先に、置いておくものがある。
この考え方を普通の言葉で読む
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