感情OS 第1章|感情ラベリング

これだけ覚えよう

  • 「しんどい」「嫌だ」だけで終わらせず、もう少し近い名前を探してみる。
  • 「体が疲れている」「明日のことが不安」のように、実は違うものが一緒になっていることもある。
  • 「何に対して?」「体のどこ?」「どのくらい?」まで見ると、感情の中身を分けやすい。
  • 難しい心理学の言葉を使う必要はない。「疲れ」「不安」「悔しい」など、自分に分かる名前でいい。
  • 名前をつけても感情が消えるとは限らない。ただ、「何だか分からない大きなもの」ではなくなる。

何を買いに来たのか

深夜のコンビニに入って、棚の前に立っている。

何を買いに来たのか、自分でも分からない。

家を出るときにあったのは、「しんどい」という一語だけだった。それが体のどこにあるのかも、何に対してなのかも分からないまま、靴を履いていた。

菓子の棚の前で、手が止まる。

甘いものが食べたいわけではない。

飲み物の棚へ移る。喉は渇いていない。

雑誌の棚。読みたいものはない。

三つの棚を回って、ようやく分かる。欲しかったのは物ではなくて、明るい場所に少しのあいだ立っていることだった。

そこまで来ると、「しんどい」が二つに分かれる。

一つは、体のほうにある。肩と、目の奥。今日は八時間、同じ姿勢だった。

もう一つは、明日の午後の会議に向いている。今日のことでも、来月のことでもない。明日の、午後の、一時間だけ。

それぞれに、名前を当ててみる。

体のほうは、疲れだ。ほかの言い方も探したが、疲れで足りる。

会議のほうは、不安のほうだ。緊張とも言えるけれど、緊張だと、明日その場に立っている自分の話になる。いまここにあるのは、明日の午後を前もって心配している側なので、不安のほうが近い。

強さも言っておく。深夜に外を歩けるくらいには軽い。座り込むほどではない。

専門的な言葉は要らなかった。疲れと、不安。この二つなら、こちらが持てる。

分かれると、大きさも変わる。

「しんどい」は、部屋の天井まであった。八時間の肩と、明日の一時間は、それぞれの大きさに戻る。天井までは届かない。

ただ、小さくなっただけで、なくなってはいない。

肩は固いままだし、明日の午後は明日来る。名前がついたから消える、ということは起きなかった。

起きたのは、こちらが半歩、外へ出たことだ。

さっきまでは、しんどさの中にいた。いまは、しんどさを見ている場所に立っている。距離は半歩で、それ以上は離れない。

レジで、温かいお茶を一本だけ買う。

欲しかったものとは違う。

けれど、何が欲しかったのかを言えるようになったので、違うと分かった。


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