
約束に間に合うように、必要な時間をきちんと計算したはずなのに遅れてしまうことがあります。朝8時30分までに受付を済ませたいので、5分前の8時25分に着く予定を立てます。準備に8分、移動に12分、合計20分。逆算して8時05分に準備を始めれば、予定どおりなら8時25分です。
この逆算は間違っていません。ただ、合計20分というのは、すべてが予定どおりだった場合の時間です。5分前に着く計画を立てたことと、5分の遅れに必ず対応できることは別です。靴が見つからない、信号で止まる、受付に人が並ぶ。毎日の生活には、少しずつ違う所要時間が入ってきます。
そこで、到着時刻を当てようとするのではなく、時間がどれくらい変動するかを考える実験をしてみます。
5日分の記録から見えること
ある人が同じ用事へ出かけたとします。準備開始から受付完了までにかかった時間が、次のようになりました。実際の人の行動記録ではなく、説明用に作った五日分です。
| 日 | かかった時間 |
|---|---|
| 月曜 | 18分 |
| 火曜 | 20分 |
| 水曜 | 24分 |
| 木曜 | 19分 |
| 金曜 | 29分 |
平均を計算すると、(18+20+24+19+29)÷5=22分です。平均22分で予定を作れば、五日間では少なくとも水曜と金曜の二日は予定時刻を超えることになります。この五日分だけから、将来も「必ず五回に二回遅れる」とは言えません。それでも平均値は遅刻を防ぐための安全な上限ではないと分かります。
最長は29分でした。もし予定の中に30分を用意していたら、この五日間の記録ではすべて収まります。ただし翌日も30分で足りる保証はありません。記録にない工事や交通規制などが起これば、もっとかかるかもしれません。
「平均22分だから22分でよい」ではなく、「どれくらい余裕を持ちたいか」という目的を先に考える必要があります。
予備時間は、怠けるための空白ではない
今度は毎日の用事を三つ並べます。
- 荷物を用意する:通常5分
- 家から駅まで歩く:通常10分
- 券売機や改札を通る:通常3分
合計18分です。これに予備時間を7分足すと25分になります。例えば8時30分に改札を通りたいなら、8時05分に荷物の準備を始める計画です。
予備の7分は、毎日必ず何かで使わなければいけない時間ではありません。早く終われば余る時間です。その余りを「損した」と感じるかどうかは、目的によって変わります。面接や試験のように遅れたくない予定なら、早めに着いて待てること自体に価値がある場合があります。
一方、時間が多少ずれても問題ない散歩なら、同じように大きな予備時間を用意する必要はないでしょう。時間の余裕は、予定を守れなかったときの影響に合わせて決めます。
全部の予定へ5分ずつ足せばいい?
それも一つの方法ですが、必ずしも適切とは限りません。例えば自宅での身支度には時間のばらつきが小さく、バスの到着にはばらつきが大きい場合、両方に同じ5分を足す理由は弱くなります。
逆に、十分な記録がなければ、ばらつきを細かい数字で予測することも難しいものです。最初は「ほぼ決まっている時間」と「日によって変わりやすい時間」を分けるだけでも進歩です。
さらに、予備時間を全部予定の最後に集めるか、途中にも入れるかも考えられます。例えば乗り換えがある移動では、出発前に10分余裕があっても、乗り換え時刻が厳しければ役に立たない場合があります。どの場所で遅れが起こるかを見ると、予備を置く位置も変わります。
「家を何分早く出ればよいか」という問いが、「どこが変動するか」「どこに余裕を置くか」に変わるわけです。
早く終わった日を失敗扱いしない
計画どおりに行動できたのに、予定より10分早く着いた日がありました。もし予定を正確に予言するゲームなら外れです。でも、時間内に着くことが目的なら成功です。
ここで二つの評価を分けておくと役立ちます。一つは「予測した所要時間が実際と何分違ったか」。もう一つは「大切な約束に間に合ったか」です。予測の精度を高めたいなら毎回記録を取り、遅刻を減らしたいなら予備時間を増やす方針が考えられます。目的が違うので、改善する対象も違います。
たとえば5分早く着く日が多いなら、その5分で読書するなど、待つ時間の使い方を決めておくと負担が減るかもしれません。逆に毎日30分以上待ち続けるのがつらければ、記録を見ながら余裕の取り方を調整できます。
次の予定で試す小さな計測
まずは同じ行動を三〜五回だけ測ってみてください。「起床から家を出るまで」「家から駅まで」「授業開始前の準備」など、対象は小さくてかまいません。開始と終了の条件をそろえます。
次に、いつもより時間がかかった日について、何が違ったかを一言書きます。記録の目的は「自分は遅い」と評価することではありません。途中で起きた遅れを見えるようにすることです。
最後に、予定の重要度に合わせて予備時間を置きます。必要ならもっと多くの記録を取り、余裕を調整してください。安全や健康に関わる予定では、少数の記録だけを根拠にぎりぎりの計画を立てない方がよいでしょう。
予定は未来をぴったり当てるものではなく、未来に起こり得るずれへ備える道具にもなります。数字を一つ足すというより、予定どおりにならない場合を計画の中に居場所として作る。それが予備時間の考え方です。
記事の所要時間と行動例は架空の記録です。公共交通機関の運行保証や、特定の予定に必要な余裕時間を示すものではありません。
関連するOS・記憶学
約束に間に合う時刻は、到着したい時刻から移動・準備・予備時間をさかのぼると決めやすくなります。この見方を別の場面にも広げたいときは、思考OS 第4章「逆算」を読んでみてください。

