
大きな扇形を見ると増えたように感じる
ある街で自転車通勤の人の割合が20%から25%へ増えたと聞くと、自転車通勤をする人が増加したと思うかもしれません。けれど割合とは全体の人数のうち、そのグループが占める部分です。全体の人数そのものが変われば、割合が大きくなっても実際の人数が減ることがあります。
たとえば最初の年に通勤者が1000人で、その20%が自転車なら200人です。次の年は通勤者が600人に減り、その25%なら150人です。割合は5ポイント上がったのに、自転車通勤者は50人減っています。「増えた」が割合なのか人数なのかで結論が逆になる例です。
円グラフが示すのは全体の内訳
円グラフは一つの全体を100%として、複数の部分がどの割合を占めるか見せる図です。円の面積を同じに描いた二つのグラフを並べても、二つの集団の総人数が同じであることにはなりません。見た目だけだと、母数が隠れてしまう危険があります。
円グラフから読み取れるのは、たとえば「この年の通勤者の四人に一人が自転車」という構成です。一方、「五年前より何人増えたか」には実数が必要です。図の目的と、自分が知りたい問いが一致しているかを確かめましょう。割合と人数を並べて示すと誤解を減らせます。
なぜ母数が変わるのか
人口減少、調査対象の変更、回答者数の違い、施設の利用者数の増減などで、割合の分母は変わります。オンラインアンケートの場合には、昨年は200人、今年は500人が答えたという違いもあります。「昨年20%、今年25%」と表示する前に、分母が何人か確認する必要があります。
特に調査方法が変わったときは注意が必要です。昨年は駅前で、今年はインターネットで募集した場合、回答者の特徴が異なる可能性があります。母数が同じでも比較に適しているとは限りません。割合の変化を時代の変化と断定するには、調査条件もそろえる必要があります。
分母が小さいと一人の重みが大きい
回答者が20人の調査で一人増えれば、割合は5ポイント動きます。回答者が1000人なら一人は0.1ポイントです。同じ割合の差でも、何人によって生じた差なのかが違います。「前回より5ポイント増」と強調されたときには、何人から何人への変化かを数えてみましょう。
また四捨五入した割合を合計すると、99%や101%になることもあります。これは元の集計に誤りがあるとは限らず、表示を整数に丸めた結果です。細かな増減を論じるなら、丸める前の値や件数を確認することが望まれます。
どの図なら人数の違いを見せやすいか
年ごとの人数を比較したいなら棒グラフが役立ちます。棒の高さを実数にすれば、増減の向きがわかります。割合の変化を見たいなら100%積み上げ棒グラフも使えますが、そこでも総数は見えなくなるため、各年の人数を注記すると親切です。
割合と総数を同時に示す方法もあります。先ほどの1000人と600人の例なら、棒全体の高さを総人数とし、内側を自転車通勤者とそれ以外に分けます。グラフの選択そのものが、何を読者に伝えるかという編集行為です。美しさより問いへの適合を優先します。
自分の表で二つの結論を作ってみよう
仮のデータとして、第一年は500人中150人、第二年は300人中120人を考えます。割合は30%から40%へ増えますが、実数は150人から120人へ減ります。人数の棒グラフと割合の円グラフを描き、どちらでどんな文章を書きたくなるか比較しましょう。
同じデータでも「割合が10ポイント増加」と「人数が30人減少」は両方とも正しい記述です。矛盾ではなく答えている質問が違います。ただしどちらか一方だけを取り上げると、読者へ異なる印象を与えられます。自分が資料を作る立場でも、隠してはいけない前提を意識します。
市場占有率にも同じ落とし穴がある
ある商品が市場の20%から30%を占めるようになったとしても、市場全体が縮小していれば販売数量が減っている場合があります。市場全体が100万個で20%なら20万個、翌年が50万個で30%なら15万個です。シェアが拡大しても数量は減っています。競合との相対的な位置と、事業の規模を区別する例です。
逆にシェアが縮小しても、市場が大きく成長すれば販売数量が増える場合もあります。ニュースで「業界首位に迫る」と言われたときに、企業の売上そのものが成長しているかは別に確かめなければなりません。割合は競争上の位置を見る道具、実数は市場規模や事業量を見る道具と考えると整理できます。
円グラフの項目をまとめるとき
円グラフの項目が細かく多いと、読めないほど小さな扇形が並びます。複数を「その他」にまとめることは見やすさのために有効ですが、「その他」の中身が重要な項目かもしれません。年をまたいで比較するなら、今年だけ項目をまとめ直していないかも確認しましょう。
例えば昨年は徒歩と自転車を別に集計し、今年は二つを合わせて「自力移動」とすれば、単純比較できなくなります。グラフが同じ色や形に見えても分類の定義が違う場合があります。対象の定義と分母、実数をそろえることが、正しい比較の基礎です。
「二倍の割合」でも二倍の人数とは限らない
全体が100人で利用率10%なら利用者は10人です。翌年、全体が40人で利用率20%なら利用者は8人になります。利用率は二倍になりましたが、人数は二人減っています。比率を実数へ戻して確かめる計算は難しくありません。元になる人数を掛けるだけです。資料に分母が書かれていなければ、実数の増減までは判断できないと明確に示しましょう。
最初に「何が分母か」を聞く
円グラフの一片が大きくなっても、そのグループの人数が増えたとは限りません。割合の変化を理解するには、全体の大きさと調査対象がどう変わったかを見る必要があります。特に比較の文章では、パーセントと人数を明確に書き分けましょう。
この読み方は、学校のクラス構成だけでなく、商品の市場占有率、選挙の得票割合、病気の検査統計などにも応用できます。大切なのは、円グラフを否定することではありません。構成を知りたい場面では優れた道具ですが、人数や規模を知りたい場面には別の数字を添えるとよいのです。

