
問題集を開く前から「無理」。
一問間違えると、すぐ「やっぱりできない」。
勉強の話をすると、「どうせやっても同じ」と返ってくる。
こういうとき、「自信がない」とまとめたくなります。
でも、「できる気がしない」には少なくとも二つの違う状態があります。
一つは、本当に成功までの距離が遠い場合。
もう一つは、近づいているのに本人からは遠く見えている場合です。
この二つを分けずに「できるよ」と励ましても、状況が変わらないことがあります。
この記事では、「できる気がしない」をさらに4つに分けて、最初に何を変えるかを考えます。
→ 24項目から先に確認する:
子どもが勉強しないときの24項目チェックリスト
自信をつける前に、成功までの距離を見る
「自信」は大切です。
ただし、目標を「自信を高くすること」にすると少し危険です。
今の課題が本当に難しすぎるのに「できる、できる」と言い続けても、問題は解けません。
逆に、少しずつできるようになっているのに、100点や合格しか成功に見えていなければ、本人はずっと「できていない」と感じます。
そこで、まず二つに分けます。
A.成功までの距離そのものが遠い
- 前提が抜けている
- 今の課題が難しすぎる
B.成功までの距離が、本人には遠く見えている
- 失敗が続いている
- 成功の基準が遠すぎる
前者では、課題側を変える必要があります。
後者では、実際の進歩を見えるようにする必要があります。
共通しているのは、
成功までの距離を縮める。縮んだことが本人にも分かるようにする。
という考え方です。
1.前提が抜けているなら、「今の問題」を繰り返さない
今の単元で間違えているからといって、原因も今の単元にあるとは限りません。
たとえば一次方程式で止まっていても、実際には符号の扱い、分数計算、等式の意味など、その前で詰まっている場合があります。
この状態で今の問題を20問増やすと、「できない経験」だけが増えることがあります。
見分けるポイント
一問を解かせて、「どこで止まったか」を見ます。
答えが合ったかだけでなく、
- 問題文は読めたか
- 使うルールは分かったか
- 式を立てられたか
- 計算の途中で止まったか
まで分けます。
「一次方程式が苦手」ではなく、どの部品から崩れているかを探します。
最初に変えること
今の単元を続ける前に、必要な前提を一つだけ戻って確認する。
全部を一学年戻す必要はありません。
「この問題を解くのに必要な前提は何か」を限定して、そこだけ補います。
家で試すなら
間違えた問題を一問選び、
- どこまでは自力でできたか
- 最初に止まった場所はどこか
- その場所に必要な前提は何か
を確認します。
必要なら、正しい解き方の例を一度見てから、似た問題を一問だけ自分で解いてみます。
「全部自力でやらせないと力がつかない」と考える必要はありません。初学者では、解き方の例がある方が学びやすい場面があります。
ただし、例を見るだけで終えず、
例を見る → 一部を自分でやる → 自力部分を増やす
へつなげます。
避けたいこと
同じ難易度の問題を、量だけ増やすことです。
また、前提不足を「集中していない」「ちゃんと考えていない」と性格の問題にしない方がよいでしょう。
改善サイン
一番分かりやすいのは、最初に止まる場所が前へ進むことです。
昨日は式も立てられなかった。今日は式は立てられた。計算で止まった。
まだ正解していなくても、成功までの距離は縮んでいます。
2.難しすぎるなら、一度「成功可能な距離」まで下げる
前提は大きく抜けていない。
それでも、今の課題が本人の現在地から離れすぎていることがあります。
難しい問題に挑戦すること自体が悪いわけではありません。
問題は、何を試せばよいかすら出てこない状態が続くことです。
見分けるポイント
問題を見たとき、
- 最初の一手が出るか
- 似た例題を思い出せるか
- 一部だけでも自力で進めるか
を見ます。
「時間をかければ解けそう」なのか、「どこから触ればよいか分からない」のかで違います。
最初に変えること
一段小さい課題を挟みます。
たとえば、
- 条件の少ない問題
- 例題に近い類題
- 一つの技能だけを使う問題
- 途中まで支援がある問題
です。
目標は簡単な問題だけを続けることではありません。
今いる場所と本番課題の間に、登れる段差を作ることです。
家で試すなら
いきなり本問題へ戻さず、
例題 → 似た問題 → 本問題
の3段階にしてみます。
似た問題で最初の一手が自力で出たら、本問題へ戻します。
避けたいこと
「難しい問題をやれば伸びる」と一律に考えることです。
逆に、失敗させたくないからと簡単な問題だけへ固定するのも違います。
支援は、自力でできる範囲が広がったら少しずつ外すために使います。
改善サイン
正解率だけではなく、
何をすればいいか分かる
が増えているかを見ます。
問題を見た瞬間に止まっていた状態から、「まずこの式を作る」と一手目が出るようになれば、距離は縮んでいます。
3.失敗が続いているなら、「できるよ」より本当に一つできる場所を作る
失敗が続くと、次の問題を解く前から予想ができます。
「また間違える」
「どうせ無理」
「やっても同じ」
ここでは、本人の予想を言葉だけで否定しない方がよいことがあります。
過去の経験から見れば、その予想には本人なりの根拠があるからです。
見分けるポイント
問題を見る前から「無理」と言う。
説明を聞く前に諦める。
以前の失敗を、そのまま次の結果の予想に使っている。
こういう状態なら、必要なのは「前向きに考えよう」より、予想を更新できる新しい経験です。
最初に変えること
成功可能な課題で、実際に一つできる経験を作る。
ただし、何でも褒めればよいわけではありません。
「すごいね」だけより、
- 前回は式を立てるところで止まった
- 今回は式までは自分でできた
- このやり方を使ったら次へ進めた
のように、何が変わったかを具体的に返します。
家で試すなら
前回と比較できる小さな単位を一つ選びます。
たとえば、
- 前回ヒント3回 → 今回ヒント1回
- 前回5分で止まった → 今回10分続いた
- 前回解説を見ても分からなかった → 今回は似た問題を一人で解けた
です。
「頑張った」という評価より、本人が距離が縮んだ証拠を見つけられる形にします。
避けたいこと
根拠のない「あなたなら絶対できる」です。
励ましが悪いのではありません。
でも、同じ条件で失敗が続いているなら、言葉だけでは本人の予想を更新しにくいことがあります。
改善サイン
言葉が、
「無理」
から
「ここまではできる」
「これは前より分かる」
へ変わってきます。
大きな自信ではなく、実際の技能に近い見積もりになっているかを見ます。
4.成功の基準が遠すぎるなら、途中の進歩を「成功」として見えるようにする
100点。志望校合格。学年順位。全部終える。
こうした目標は大切です。
でも、それだけが成功なら、途中の数週間や数か月はほとんど「まだできていない」時間になります。
本人が前より進んでいても、成功が遠すぎて見えません。
見分けるポイント
本人が、
- 「まだ全然だめ」
- 「100点じゃないから意味がない」
- 「合格できるか分からないからやってもしょうがない」
のように、遠い結果だけで現在を評価していないかを見ます。
最初に変えること
遠い結果目標とは別に、近い学習目標を作ります。
たとえば、
- 今週は英単語50個ではなく「昨日間違えた10個を言える」
- 数学の点数ではなく「一次方程式の移項を一人でできる」
- 国語の順位ではなく「根拠になる一文を自分で探す」
です。
大きな目標を捨てるのではありません。
大きな目標までの途中に、今週見える成功を置きます。
家で試すなら
勉強の終わりに一つだけ聞きます。
「今日、前よりできるようになったことは何?」
答えが出なければ、大人側から褒める前に、一緒に具体的な変化を探します。
避けたいこと
何でも「成功」にしてしまうことです。
進歩を見せることと、基準をなくすことは違います。
「頑張ったからOK」ではなく、
何ができるようになったか
を具体化します。
改善サイン
本人が、遠い結果だけでなく、
「次はここ」
「今日はここまで進んだ」
と言えるようになります。
成功までの距離が、一本の長い道ではなく、途中の目印がある道に変わります。
4つは似ているが、最初に動かす場所が違う
整理すると、こうなります。
| 状態 | まず見るもの | 最初に変えること |
|---|---|---|
| 前提が抜けている | どの技能から崩れているか | 必要な前提だけ戻る |
| 難しすぎる | 最初の一手が出るか | 一段小さい課題を挟む |
| 失敗が続いている | 過去の失敗が予想になっているか | 実際に一つ成功できる条件を作る |
| 成功の基準が遠すぎる | 途中の進歩が見えているか | 近い学習目標と進捗を見える化する |
この4つを全部「自信がない」で処理すると、介入がずれます。
前提不足なのに褒める。
難しすぎるのに目標だけ細かくする。
失敗が続いているのに同じ条件でさらに問題を増やす。
進歩しているのに100点だけを見る。
こうしたずれを減らすために、まず「どの距離が遠いのか」を見ます。
改善したかは、「自信がついた?」だけで見ない
この根っこでは、次の変化を見ると分かりやすいです。
- 問題を見たとき、最初の一手が出る
- ヒントなしでできる部分が増える
- 失敗後に次の問題へ戻れる
- 「全部無理」ではなく「ここまではできる」と言える
- 次に何を練習すればよいか本人が分かる
- 実際の理解や技能も進んでいる
自信が上がっていても実力が追いついていなければ、まだ距離は残っています。
逆に、自信満々でなくても、自力でできる範囲が増えているなら改善は起きています。
「できる気がしない」を動かすときの一番大事なこと
「できる気がしない」と言われると、大人は「そんなことない」と返したくなります。
でも、先に確認したいのは、
その予想は、今の課題では本当に間違っているのか。
です。
本当に遠いなら、距離を縮める。
近づいているのに遠く見えるなら、進歩を見えるようにする。
そのうえで初めて、「できそう」という感覚が実際の技能とつながります。
「できるよ」と言うより、本当に一つできる場所を作る。
そこから始めます。
→ 6つの根っこ全体の最初の一手:
勉強の「やる気」を出させる前に|6つの根っこ別・最初に試すこと
この整理について
この記事の「成功までの距離」という表現は、既存研究にある正式な診断分類ではありません。
学習における自己効力感、mastery experiences、mastery learning、worked examples、process goals、progress feedbackなどの研究を、家庭で判断しやすい形にまとめたサイト側の統合表現です。
研究からは、自己効力感と学習成果には関連がある一方、単純に「自信を高くすれば成績が上がる」とは言えないことも示されています。
また、初学者へのworked example、成功可能な課題への調整、近い目標と進捗feedbackなどには一定の支持がありますが、すべての子・教科・課題に同じ方法が効くわけではありません。
この記事では、その範囲を越えて「この方法なら必ず改善する」とは扱いません。


