候補が一つ増えただけで当選者が変わる? 多数決の意外な実験

クラスで行事の行き先を決める場面を想像してください。候補は「動物園」と「水族館」の二つ。多くの人が動物園を選んだので、行き先は動物園になりました。ところが、もう一つ「植物園」を候補に加えて投票し直すと、水族館が一番になることがあります。

植物園に行きたい人が一番多くなったわけではありません。それなのに勝者が変わるのです。候補を増やすことは、必ずしも「それまでの多数決の結果に、新しい選択肢を付け足すだけ」にはなりません。

数字で確かめる

ここでは架空の12人の好みを使います。全員が順位を決め、単純な一人一票の投票では、その時点で最も好きな候補へ投票するという条件です。

まず候補が二つだけだったとき、12人の投票は次のようになりました。

候補 得票
動物園 7票
水族館 5票

動物園の勝ちです。今度は植物園を追加します。12人の好みは、たとえば次のような構成だったとします。

人数 1位 2位 3位
4人 動物園 水族館 植物園
3人 植物園 動物園 水族館
5人 水族館 動物園 植物園

候補が動物園と水族館だけなら、最初の4人と次の3人は動物園を選び、残り5人が水族館を選びます。だから7対5です。

ところが植物園を追加した後は、4人が動物園、3人が植物園、5人が水族館に投票します。結果は4対3対5で、水族館の勝ちです。

この例で誰かが急に考えを変えたわけではありません。ここで決選投票を追加し、上位二候補の水族館と動物園で直接選ぶルールにすれば、動物園が7対5で勝ちます。同じ12人の順位を使っても、単純に一位票だけを数えるか、最後に二候補を比べるかによって選出結果が変わることを確かめられます。一人一人の順位は同じでも、投票できる候補の集合が変わると、一位票の配分が変わったのです。

新しい候補は何を変えたのか

変化が起きたのは、もともと動物園と水族館を比べたときに動物園を選んでいた3人です。その人たちは、動物園より植物園の方が好きだったため、植物園が候補に入った瞬間に投票先を変えました。

もともと水族館を選んでいた5人は変わりません。その結果、動物園の7票のうち3票が植物園へ移り、水族館が5票で首位になりました。

注目したいのは、水族館が動物園より好きな人が増えたわけではないことです。12人のうち、二者の比較では動物園が7人に好まれたままです。一位票を数える方法で三者を選んだことが、結果の違いを生みました。

これは投票の間違いなの?

計算の誤りではありません。何を「選びたい結果」と考えるかによって、投票方法の良し悪しも変わります。

一位票を数える方法は簡単で、投票する人にも集計する人にも分かりやすいという利点があります。一方、一位以外の順位は得票に反映されません。7人が水族館より動物園を好んでいても、三者の一位票だけではその情報が見えなくなります。

では順位をすべて使えば、問題は解決するのでしょうか。順位に応じて点数を付ける方法や、候補を二つずつ比較する方法などもありますが、それぞれ別のルールと判断基準があります。どの制度でも、何を満たしたいのかを先に考えることが重要です。

「候補が一つ増えても、ほかの二つの相対的な人気が変わらなければ勝者が変わらないでほしい」という性質を重視する考え方もあります。ただし、すべての望ましい性質を同時に満たすことは単純ではありません。ここでは制度の優劣を断定するのではなく、集計方法によって答えが違うことを確認しましょう。

順位の循環と、一位票の分散は別の現象

候補を二つずつ比べると「AがBに勝ち、BがCに勝ち、CがAに勝つ」という循環が生じる場合があります。しかし、今回起きているのはそれとは異なる現象です。

今回の12人の例では、動物園と水族館を直接比べれば動物園が7対5で勝ちます。しかし三者の一位票を数える方法では水族館が勝ちます。投票者の好みが循環していることと、候補を増やして一位票が分散することは別の現象です。

手を動かしてみよう

紙に「動物園」「水族館」「植物園」と書き、12人の表を使って次の実験をしてください。

まず植物園を消して、動物園と水族館の得票を数えます。次に植物園を戻して、三つの候補の一位票を数えます。最後に、植物園を一番好きな3人が、もし「植物園、水族館、動物園」の順に好きだったらどうなるかを考えてみましょう。

この場合、二者だけならその3人は水族館に投票するので、動物園4票、水族館8票になります。三者では動物園4票、植物園3票、水族館5票のままです。どこが変わり、どこが変わらないかを比較すると、結果を動かしている条件がはっきりします。

それでは学校でどう決める?

実際の話し合いでは、最初に何を大切にしたいかを決める方法があります。「なるべく多くの人が強く希望する場所を選ぶ」のか、「嫌がる人が少ない場所を選ぶ」のかでは、重視する情報が違います。全員の順位を聞く方法、候補を一つずつ減らす方法、二つずつ比較する方法など、選び方にも選択肢があります。

今回は一位票を数える方法だけを扱いましたから、順位投票の方がいつも公平だと結論することはできません。むしろ何を公平と呼ぶのか議論できることが、この実験の価値です。動物園を支持する7人のうち3人は植物園をもっと好きだという点にも注目しましょう。「動物園に7票」は絶対的な支持者が7人いるという意味ではありません。二者択一という条件で動物園を選んだ人が7人いたということです。投票の数字は質問の形と一緒に理解する必要があります。

まとめ

多数決の結果は、人数だけで決まるわけではありません。候補の集合と、票をどう集計するかによっても変わります。候補が増えたときは「新候補に何票入ったか」だけでなく、「その票はもともと誰に入るはずだったか」を考えると、結果の仕組みを説明できます。

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