
同じ出来事を、四つの目的で書き分ける最後の3分実験
ここまで23回、文章をいろいろな方向へ動かしてきました。
最後に、こんな問いを置きます。
うまい文章とは、どんな文章でしょうか。
まずは答えを決めず、同じ出来事を四通りに書いてみます。
まずやってみる
1. 共通する事実を読む
明日の遠足は、雨の予報のため金曜日に延期になった。
これを、目的別に変えます。
2. 「すぐ行動してほしい」文章
明日の遠足は延期です。金曜日に行います。明日は通常授業なので、教科書を持ってきてください。
必要なのは、まず行動です。
3. 「出来事を残したい」文章
玄関に置いていた遠足のリュックを、もう一度部屋へ戻した。明日は雨らしい。楽しみにしていた遠足は金曜日になった。
事実は同じでも、場面が増えました。
4. 「一目で知らせたい」文章
遠足、雨予報で金曜日に延期
短さが優先されています。
5. 「理由まで理解してほしい」文章
明日は雨の予報が出ているため、安全を考えて遠足を金曜日に延期します。
今度は理由とのつながりが中心です。
では、四つの中で一番「うまい文章」はどれでしょうか。
ここから種明かし
一つには決められません。
なぜなら、目的が違うからです。
- 行動してほしい
- 場面を残したい
- 一目で知らせたい
- 理由まで分かってほしい
目的が変われば、必要な文章も変わります。
つまり、
短いから上手 具体的だから上手 比喩があるから上手 情景が浮かぶから上手
と、一つの基準だけでは決められません。
ここまでの答えを見比べてみよう
| <見るところ> | <たとえば> |
|---|---|
| 行動が目的 | 明日は通常授業。教科書を持ってくる |
| 記録が目的 | リュックを部屋へ戻した場面を書く |
| 一覧性が目的 | 遠足、金曜日に延期 |
| 理解が目的 | 雨予報→安全を考えて延期 |
| 共通点 | 目的に合わせて、残す情報と形を変える |
文章で見ると?
「上手さ」より先に、目的を置く
文章を直すとき、
もっと短く もっと具体的に もっと印象的に
と考えることがあります。
でも、その前に、
この文章で何を起こしたい?
を決めると、必要な修正が変わります。
行動してほしい文章なら、情景を増やしすぎない方がよいことがあります。
物語なら、短さより場面を残した方がよいことがあります。
そこで、このシリーズでは「うまい文章」をいったん、
目的に必要なものが、読み手に届く形になっている文章
と置いてみます。
これも絶対の定義ではありません。
別の目的を置けば、また定義を作り直せます。
記憶学で見ると?
文章の目的によって、「何を覚えてほしいか」も変わります。
遠足の連絡なら、
- 延期
- 金曜日
- 明日は通常授業
が残れば十分かもしれません。
一方、日記なら、リュックを戻した場面の方を残したいかもしれません。
つまり記憶について考えるときも、
何を残したいのかを先に決める
必要があります。
脳のOSで見ると?
再定義
「うまい文章」という曖昧な言葉を、これまでの実験を使って定義し直しました。
他には……
- 場合分け: 文章の目的ごとに、必要な書き方を分ける。
- 前提把握: 誰が何のために読む文章なのかを見る。
- 選ぶと捨てる: 目的に必要な情報を残し、不要なものを外す。
- 決める: この文章で何を起こしたいかを決める。
もう一度だけ
最後の実験です。
同じ出来事を二通りに書いてください。
電車が20分遅れた。
一つは「家族へ知らせる文章」。 もう一つは「あとで自分が読み返す日記」。
どちらも、その目的に合っていれば正解です。

