
これだけ覚えよう
- バラバラの出来事を、「何が起きて、そのあと何が変わった?」の順に並べてみる。
- たとえば「椅子が壊れた → 新しい椅子を買った → 使う人がいなくなった」のように、順番にすると流れが見えやすい。
- ただ並べるだけでなく、「その出来事のあと、何が変わった?」を見ることが大切。
- ただし、前に起きたことが後の出来事の原因とは限らない。順番と原因は別。
- きれいな物語ができたときほど、「抜けている出来事はない?」と確かめる。
一脚だけ違う
食卓に、椅子が四脚ある。
三脚は同じで、一脚だけ違う。座面が少し高く、色も濃い。
なぜ違うのか、と聞かれると、うまく答えられない。理由を探しにいくと、途中で止まる。
だから、順番に置いてみる。古いほうから。
一。四脚のうち一つが壊れた。脚の付け根が割れた。
二。同じものが売っていなくて、近い形の一脚を買った。
三。妹が家を出た。
四。その椅子に、誰も座らなくなった。
五。いまは、上に新聞と、たたんだ紙袋が載っている。
並べただけでは、まだ「そして」を五回足したにすぎない。ここから、一つずつ、そのあとで何が変わったかを聞く。
一のあと、四人で座れなくなった。誰かが立ったまま食べる日が、二日あった。
二のあと、四人に戻った。ただし、その席だけ少し高くて、座った人の肘が食卓に届きにくい。
三のあと、椅子が一つ余った。
四のあと、余った椅子は、席ではなくなった。
五は、まだ何も変えていない。ただ、置き場所として落ち着いた。
「そのあと、何が変わった」を挟むと、出来事の列が、変化の列になる。
挟んでみると、書けない場所が出てくる。三のあとに「余った」と書いたが、余ったのはいつからだろう。ある朝から急に余ったのではない。何度か座らない日があって、そのうち誰も座らなくなった。
変化には、日付のつかないものがある。出来事のほうには、日付がある。そこがずれているせいで、並びは、いつも少しだけ嘘になる。
ここまで、理由は一つも書いていない。
妹が出たから誰も座らなくなった、とは書いていない。並びとしては、そう見える。見えるだけだ。三と四のあいだに矢印を引きたくなるのは、二つが近くにあるからで、近さは矢印ではない。
物語にすると、分かった気持ちが強くなる。そこが危ない。
三と四を続けて置くと、話が急に整う。整うと、こちらは満足する。満足したところで、たいてい、落ちるものがある。
母は、いまでもたまにその椅子に座る。新聞をどけて、少し高い座面に、浅く腰かける。電話をするときだ。座って、話して、すぐ立つ。
数えるほどのことではない、とこちらは思っていた。思っていたこと自体が、すでに話の形に合わせて決められている。
整った話には、その日が入らない。入れると、四が「誰も座らない」ではなくなり、話の形が崩れる。崩れるのが嫌で、こちらは無意識に、その日を数えないことにしている。
もう一つ、後から出てくる。
壊れたのは、妹が出たあとだった。
順番が入れ替わる。三と一が入れ替わると、そのあいだの「変わったこと」は全部書き直しになる。四人で座れなくなった二日間は、そもそも四人ではなかった時期の話になる。
物語は、そこで壊れるのではない。もう一度、並べ直せる。
並べ直したあと、残るものと消えるものがある。「四人で座れなかった二日間」は消える。「その席だけ肘が届きにくい」は、順番が変わっても残る。順番に寄りかかっていた部分と、そうでない部分が、組み直したときに分かれる。
並べ直せる形で持っていたかどうかだけが、あとから効いてくる。
新聞をどける。
座面が見える。少し高い。
座ってみると、食卓の見え方が、ほかの三脚と違う。
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