
文化祭の出し物を「劇」「展示」「クイズ」の三つから決めることになりました。三人とも希望する順番をはっきり持っています。それなのに、どの二案を比べるかで勝者が変わり、最後まで「一番強い案」を決められない場合があります。
多数決そのものが間違っている、という話ではありません。誰が何を好きかだけでなく、候補をどのように比較して決めるかが結果に影響することを、数字で確かめてみましょう。
まず三人の希望を並べてみます
ここからの人物・投票は、仕組みを理解するために作った架空の例です。実際の調査結果ではありません。
| 人 | 1位 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
| Aさん | 劇 | 展示 | クイズ |
| Bさん | 展示 | クイズ | 劇 |
| Cさん | クイズ | 劇 | 展示 |
三人とも同じ重みの一票を持ち、順位は途中で変えないとします。また、二つの案を選ぶ場面では、その二案のうち順位が高い方へ投票するとします。
これだけで、誰かが嘘をつくことも、投票をやり直すこともなく、面白い現象が起きます。
実験1:劇と展示を比べる
Aさんは劇が上、Bさんは展示が上、Cさんは劇が上です。
- 劇:Aさん、Cさんの2票
- 展示:Bさんの1票
劇が2対1で勝ちます。 ここまでは普通の多数決です。
実験2:展示とクイズを比べる
Aさんは展示が上、Bさんも展示が上、Cさんはクイズが上です。
- 展示:Aさん、Bさんの2票
- クイズ:Cさんの1票
展示が2対1で勝ちます。 先ほど劇に負けた展示も、相手がクイズなら勝てます。
実験3:クイズと劇を比べる
Aさんは劇が上、Bさんはクイズが上、Cさんもクイズが上です。
- クイズ:Bさん、Cさんの2票
- 劇:Aさんの1票
クイズが2対1で勝ちます。 しかし劇は展示に勝ち、展示はクイズに勝っていました。
三つをつなげると、次の輪になります。
劇 > 展示 > クイズ > 劇
ここでの「>」は「二案ずつの多数決で左側が勝つ」という意味です。点数が高いとか、全員にとって必ず良いという意味ではありません。
勝者が輪になるのは、三人が迷っているから?
いいえ。三人の順位は最初から最後まで一切変わっていません。一人ひとりの考えは矛盾していなくても、その人たちの意見を二案ずつ多数決でまとめると、集団としての勝敗が輪になることがあります。
この現象は多数決の循環と呼ばれ、コンドルセのパラドックス(逆説)の代表例です。今回の三人は、ちょうどその仕組みが見えやすいように並べた例です。現実の投票で必ず循環が起きる、という主張ではありません。
ここで重要なのは、勝敗の数字を三回とも自分で数えることです。「多数決なら必ず一つの順番ができる」という思い込みと、実際の票の計算を比べられます。
比べる順番を変えると、最後に残る案も変わります
「まず二案で多数決をし、勝った案と残る一案を比べる」という方法を試します。負けた案はその時点で除外する決め方です。
| 最初に比べる案 | 先に勝つ案 | 最後に対戦する案 | 最終勝者 |
|---|---|---|---|
| 劇 対 展示 | 劇 | クイズ | クイズ |
| 展示 対 クイズ | 展示 | 劇 | 劇 |
| クイズ 対 劇 | クイズ | 展示 | 展示 |
三人の好みを変えずに、最初の組み合わせを変えただけで最終勝者が三通りになりました。
ここから「順番を決める人は必ず結果を操作している」とまでは言えません。しかし、決める順番が結果に影響する仕組みなら、順番をどう決めたのかを説明する価値があります。
では、どの方法なら公平なのでしょうか
一位票だけを数える方法もあります。この例では劇・展示・クイズが各1票で引き分けです。また、1位に3点、2位に2点、3位に1点を与えるなら、各案が合計6点で同点になります。
ただし、今回のように三人の順位がきれいに巡る例で同点になったからといって、すべての採点方式がいつも同じ結果になるわけではありません。「一番多くの人が第一希望にした案を選びたい」のか、「できるだけ多くの人が受け入れやすい案を選びたい」のかでも、適した決め方は変わります。
つまり、公平さを考える前に、何を公平に扱いたいのかを決める必要があるのです。
例えば学校の行事なら、全員の第一希望を尊重したいのか、準備できる人数や費用などの条件を重視したいのか、少数の人へ過度な負担がかからないことを優先したいのか。投票だけでは解決できない部分もあります。
自分で試す:一人の順位を入れ替えてみよう
次の小さな実験をしてみてください。
- 最初の表で、Cさんの1位と2位を入れ替えます。Cさんの順位は「劇 > クイズ > 展示」になります。
- 三組の二案対決を、もう一度数えてみます。
- 勝敗の輪が残るか確認します。
答えは、劇が展示に2対1で勝ち、劇がクイズに2対1で勝ち、展示がクイズに2対1で勝ちます。したがって、劇がほかの二案に勝つため、先ほどの輪は消えます。
一人の順位を少し変えただけで、集団の勝敗の構造が変わりました。ここで確かめたのは、「ある人の意見が重要だからその人に従うべき」ということではなく、個々の意見をまとめる規則が、結果をどう作るかということです。
実生活では何を確かめればよい?
三案以上の中から多数決で決めるときには、次の三つを確認すると考えやすくなります。
- 何を選ぶための投票か。 一番人気、実行のしやすさ、負担の小ささなど、目的を明確にします。
- どんな方式で票を数えるか。 一位だけか、順位も使うか、二案ずつ比較するかを決めます。
- 順番や候補の選び方が結果に影響するか。 あらかじめ手続きを共有すると、後からの不信を減らす助けになります。
多数決は意見をまとめる有力な方法ですが、「票が多かったから、その案が誰にとっても一番良い」という証明ではありません。多数決の結果を尊重することと、方法の限界を理解することは両立します。
まとめ
三人の好みがそれぞれ一貫していても、二案ずつの多数決では「劇が展示に勝ち、展示がクイズに勝ち、クイズが劇に勝つ」という循環が起きました。さらに、二案ずつ勝ち抜く順番によって最後に残る案も変わりました。
だからこそ、何を決めたいのかと、どう決めるのかを分けて考えることが大切です。多数決を疑って何も決められなくなるためではなく、使う場面に応じて納得できる決め方を選ぶための視点です。
この記事の三人の投票は、数学的な現象を説明する架空の例です。
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