
これだけ覚えよう
- 何か一つを選ぶと、同時には選べないものが残ることがある。
- 二つの大切な予定が同じ時間なら、どちらかを選べば、もう片方には行けない。
- どちらにも良いところがあるほど、選んだあとにも「もう一方も行きたかった」と思う。
- 惜しい気持ちが残ったからといって、選択を間違えたとは限らない。
- 選ぶとは、「一番いいものを当てる」だけでなく、選ばなかった方も引き受けること。
二通が、同じ日に届いた。
一通は厚い紙で、封に金の縁がある。十年会っていない人の式。隅に、手書きで一行ある。
あの頃の話を、あなたとしたい。
もう一通は薄い封筒で、宛名が万年筆で書いてある。世話になった人の、最後の日の会。こちらの隅にも、一行。
あなたには、いてほしい。
どちらの一行にも、自分の名前が書いてある。
日付が同じである。時刻も同じである。会場は、電車で一時間離れている。
一通を、下に置く。翌朝、机を片づけると、上に戻っている。もう一度、下に置く。夕方には、また上にある。四日のあいだ、上下が入れ替わり続ける。
同じペンで、一通に出席と書く。同じペンで、もう一通に欠席と書く。インクの色は、二通とも同じである。
二枚のはがきを、同じポストへ入れる。落ちる音が、二回する。二回目の音の方が、少し遅れた。
当日。会場で、拍手をする。名前を呼ばれて、笑う。写真の端に写る。
同じ時刻、別の会場でも椅子が並んでいる。誰かが立ち上がり、誰かが名前を呼ばれている。自分のいない時間が、こちらと同じ速さで進んでいる。
帰り道、駅の階段で足が止まる。
惜しさは、間違いの印ではない。
過ぎた日付の一通を、引き出しへ入れる。
捨てはしなかった。
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