理解OS 第13章|全体→部分

これだけ覚えよう

  • 細かいところを見る前に、まず全体をざっと見る。
  • 合唱なら、自分の八小節だけ練習するより、曲全体の中で「ここはどんな場所か」を知ったほうが歌いやすい。
  • 同じ部分でも、全体のどこに置かれているかで役割が変わることがある。
  • 最初から全部を細かく理解する必要はない。「だいたいこんな形」を先につかめばいい。
  • 全体を見るのは、細かい部分を覚えるための「置き場所」を先に作ること。

八小節

配られた紙には、八小節だけが書いてある。

自分の八小節。

音を取る。何度も取る。取れているのに、どこにも置けない。

指揮者の手が上がるたび、小節を数える。数えているあいだは、歌えない。

隣の人も数えている。全員が、自分の八小節だけを持って立っている。

指揮者が、ピアノで一度だけ、最初から最後まで弾く。速く、粗く。細かいところは飛ばして、輪郭だけ。

三分。

そのあいだに、自分の八小節が二度、通り過ぎた。

一度目は、いくつもの声が重なっている中を。

二度目は、ほとんど何も鳴っていないところを。

紙の上の音符は、一つも変わっていない。

けれど、二度目の八小節は、さっきまでの八小節ではなくなった。ここは、まわりが引くところだ。だから、大きく出るのではなく、置きにいく。

一度目のほうは、逆だった。あそこで自分の声は、他の声の中へ沈む。沈むように書かれている。強く出せば、そこだけが壁になる。

同じ八小節が、二度とも違う仕事をしていた。紙の上では、二度とも同じ顔をしていた。

置かれている場所が違えば、頼まれていることが違う。紙は、その違いを書いてくれない。

三分のあいだ、自分は一度も歌っていない。

部分だけを見ているあいだ、正しく歌うことはできる。どこへ向けて歌うのかが分からないだけだ。

三分の演奏は、飛ばしてばかりだった。前奏も、繰り返しも、途中の長い部分も、ほとんど鳴っていない。

それでよかった。全部を覚えるために聞いたのではない。八小節を受け取る場所を、先に作るために聞いた。

曲を分かったとは、まだ言えない。題名の意味も、途中で何が起きているのかも言えない。輪郭だけの三分は、輪郭のままだ。

それでも、八小節は置けた。

隣の人が、自分の四小節を差し出して聞く。

これ、どこ。

終わりから三つ目の、静かになるところ。

答えられたのは、粗い三分を通ったからだ。

もう一度、自分の八小節を歌ってみる。

音は、何も変えていない。変わったのは、息の入れ方だ。前の小節の残りが消えるのを待ってから入る。待てるのは、そこに何があるかを知っているからで、紙にはそれが書かれていない。

練習が終わる。紙は同じ紙のまま、鞄へ入る。

増えたのは、八小節の前と後ろにある時間のほうだ。


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