理解OS 第2章|用語分解

これだけ覚えよう

  • 大きすぎる言葉は、小さく分けると分かりやすくなる。
  • たとえば「考える」なら、「思い出す・比べる・分ける・理由を探す」などに分けられる。
  • 「自分はコミュ力がない」も、「話しかけにくい」「質問のあと話を広げにくい」などに分けられる。
  • 大きなままだと「自分はダメだ」で終わることも、分ければ「ここを練習しよう」に変えられる。
  • 何をすればいいか分かるところまで分けたら、そこで止めればいい。

考えるって、何をすればいいの?

中学二年生の男の子だった。

数学のノートには、途中式がない。答えだけが、縦に並んでいる。

間違えると、消しゴムで消して、また答えだけを書く。

「ここ、どうしてこの答えになったの?」

「……なんとなく」

家でも、学校でも、彼は同じことを言われ続けていた。

ちゃんと考えなさい。

もっと考えてから解きなさい。

その日、私は聞き方を変えてみた。

「『考えて』って言われたとき、何してるの?」

彼はしばらく黙っていた。それから、少し怒ったような顔で言った。

「考えるって、何をすればいいの?」

その声には、何年分かの疲れが混ざっていた。

彼は、怠けていたのではなかった。

「考える」という言葉の中に、どんな動作が入っているのかが、彼にはまだ見えていなかっただけだ。

大きな言葉を、細かい動作に開くこと。それが、用語分解である。

「考える」を、開いてみる。

思い出す。比べる。分ける。理由をたどる。逆から見る。

「考えて」と言われても、手は動かない。動作が見えないからだ。

けれど「まず、似た問題を思い出してみよう」なら、手が動く。

大きすぎる言葉は、命令に見えて、その実、何も指示していない。

言葉の中には、易しい部品が畳まれていることがある。

「可処分所得」。

初めて見ると、身構える。

けれど、継ぎ目で開くと、「自分で使い道を処分できる、所得」。手取りの給料のことだと分かる。

難しい言葉は、ときどき、易しい部品が組み合わさってできているだけである。

一枚の大きな板に見えたものが、継ぎ目で開く。

開くことが、いちばん効くのは、自分を責める言葉である。

「自分は、コミュ力がない」

この一言は、大きくて、重くて、手のつけようがない。

けれど、開いてみる。

初対面の人に、話しかけられない。

質問はできるが、話題を広げられない。

緊張すると、声が小さくなる。

沈黙が続くと、嫌われた気がする。

開いたとたん、性質が変わる。

「コミュ力がない」は、動かせない。生まれつきの、大きな欠陥に見える。

けれど「初対面で話しかけられない」なら、練習できる。

「話題を広げられない」なら、広げ方を一つ覚えればいい。

欠点だったものが、開いた瞬間、練習できる場所に変わる。

大きな言葉のままでは、人は自分を責めることしかできない。

ただし、開きすぎても、見えなくなる。

一つの動作を、さらに細かく、さらに細かく割り続ければ、今度は全体がどこへ行ったのか分からなくなる。

分けるのは、扱うためだ。

次に何をすればいいかが見えたら、そこで止めていい。

あの生徒には、その日から「考えて」と言うのをやめた。

代わりに、答えられる問いを置いた。

どこまでは分かってる?

分からなくなったのは、どの行?

似た問題、前にやった?

しばらくして、彼は自分でその問いを使うようになった。

ある日、問題文を指して言った。

「先生、『適切な値を求めよ』の『適切』って、何?」

私は、すぐには答えられなかった。

二人でしばらく、問題文を眺めた。

大きな言葉の前で立ち止まり、開こうとしている。

その手つきは、もう、誰かに借りたものではなかった。


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