
「アンケート回答者の80%が賛成しました」という結果を見て、「10人中8人が賛成なんだ」と受け取るのは自然です。でも、その10人とは誰でしょうか。実際に質問を配られた人でしょうか。それとも、回答を返した人だけでしょうか。
数字の意味を確かめるため、架空の町内イベントのアンケートを作ってみます。誰かの実際の調査結果を疑う記事ではありません。同じ集計が、説明の仕方によって違う印象を与える仕組みを考える実験です。
100人に配って、60人から返事が来た
住民100人に「来年も夏祭りを開きたいですか」と質問用紙を配りました。回答した60人のうち、48人が賛成、12人が反対。40人は回答しませんでした。
| 状態 | 人数 |
|---|---|
| 賛成と回答 | 48人 |
| 反対と回答 | 12人 |
| 回答なし | 40人 |
| 配布対象 | 100人 |
回答者だけで割合を出すと48÷60=80%。したがって「回答した60人のうち80%が賛成」は正しい文です。一方、「住民の80%が賛成」と書くと、100人全員の気持ちを調べたように聞こえるかもしれません。100人のうち48人が賛成だと確認できた、というところまでは確かです。
もちろん、「回答しなかった40人は反対だった」と決めることもできません。賛成だが忙しくて回答しなかった人、内容をよく知らない人、判断できなかった人もいるかもしれません。どういう内訳かは、追加の情報なしには分かりません。
全員に聞けたとしても、全員の答えは分からない
今回の設定では、100人全員に用紙が届いています。それでも、返事のない40人の意見は未知です。もし40人全員が反対なら、100人全体の賛成者は48人で48%。逆に40人全員が賛成なら88人で88%です。
つまり、**既知の数字だけから分かる全体の賛成割合の範囲は48〜88%**となります。これは極端な二つの想定であって、実際の賛成率がどちらかに近いと言っているわけではありません。調べるためには、回答していない人の情報が必要なのです。
ここで、賛成者48人・反対者12人という回答済みの数は変わりません。それでも「住民全員のうち過半数が賛成した」と結論づけることはできません。回答のない40人の中で3人以上が賛成なら全体の賛成は51人以上になりますが、その3人がいるかどうかさえまだ確かめられていません。
この小さな違いに気づくと、「割合」だけでなく、分母に誰が入っているかへ目が向くようになります。
今度は質問を配った相手も変えてみる
町内100人ではなく、夏祭りの運営に毎年参加しているボランティア20人だけに質問したとします。20人全員が回答し、18人が賛成なら90%です。しかし、これは「ボランティアの90%が賛成」であり、「町内全体の90%」を示すものではありません。
回答率が100%でも、質問をした相手が誰かによって、結果が代表する範囲は変わります。町内の全員を知りたいのに、祭りが好きな人の集まりだけに聞くのでは偏りが生じる可能性があります。
一方、住民から適切な方法で抽出した一部の人を調べ、全体を推計する標本調査もあります。全員に聞かなければ必ず無意味という話ではありません。ただ、どのように対象を選んだのか、回答しない人の影響がありそうか、といった点を確認する必要があります。
総務省統計局も、標本調査には標本誤差があり、無回答や質問の誤解などの非標本誤差も生じることを説明しています。単に人数を増やせばすべて解決するわけではないのです。
質問の仕方で、別のものを測ってしまうこともある
夏祭りの質問を「夏祭りに賛成ですか」から、「子どもたちが楽しみにしている夏祭りを続けることに賛成ですか」に変えたらどうでしょう。後者には、行事の判断とは別に「子どもの楽しみを守りたい」という気持ちに働きかける言葉が含まれています。
実際に回答が何%変わるかは、ここでは実験していません。だから「必ず賛成が増える」と断言はできません。ただ、二つの質問は同じ情報だけを提示していないと分かります。比較するなら、聞き方をそろえる必要があるでしょう。
別の例として、「賛成/反対」の二択では迷う人もいます。「どちらとも言えない」という選択肢を足すだけで、回答の分布が変わる場合も考えられます。ただし、その変化は質問票と対象者次第です。
読者が自分でできる、結果の読み直し
アンケートの記事や掲示物を見たら、まずタイトルの大きな数字をノートの端に書きます。その下に、小さく三つの質問を並べてください。「誰に聞いた?」「何人が答えた?」「どんな言葉で聞いた?」です。
例の80%なら、回答した60人の48人が賛成だと分かりました。ここまで読み直してから、「祭りの開催を決める資料として十分か」を考えます。町内に参加費の負担があるのか、騒音の心配があるのかなど、賛否以外の情報も関係するかもしれません。
大切なのは、80%という数字を否定することではありません。その80%が正確に表している範囲をつかむことです。数字の読み方が一段変わると、意見が違う相手とも話し合いやすくなります。
本文の100人・60人・48人などの数値は、仕組みを考えるために設定した架空のアンケートです。実在の世論調査結果ではありません。
参考資料
- 総務省統計局「全数調査・標本調査」 https://www.stat.go.jp/naruhodo/7_shurui/zensu.html
- 総務省統計局「就業構造基本調査に関するQ&A(回答)」 https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/qa-1.html
操作して確かめる
記事の内容を自分で動かして試すには、アンケート無回答を含む割合を使えます。
関連するOS・記憶学
回答した人の割合だけでは、回答しなかった人を含む全体の意見は決まりません。この見方を別の場面にも広げたいときは、理解OS 第13章「全体→部分」を読んでみてください。

