地図では近いのに、歩くと遠いのはなぜ? 「まっすぐの距離」と「道の距離」を比べる

地図で見ると、家から図書館はすぐ近く。けれども、実際に歩くと意外に時間がかかります。一方、少し遠くに見えた別の施設のほうが、歩いてみると早く着くこともあります。

これは人間の方向感覚が間違っていると決めつける話ではありません。地図上の二点を直線で結ぶ距離と、実際に歩ける道を通る距離は、そもそも違うものだからです。今回は四角い区画の架空の町を使い、位置が「近い」とはどういうことかを考えます。

直線なら5区画、歩くと7区画

方眼紙を用意し、家を座標(0,0)、図書館を(3,4)に置いてください。横に3区画、縦に4区画の位置です。1区画を100メートルと仮定します。

紙の上で二点を直線で結ぶと、直角三角形ができます。直線の長さは三平方の定理から、√(3²+4²)=5区画、つまり500メートルです。これが直線距離です。

ところが、道路が縦横にしかなく、斜めには歩けない町だとしたらどうでしょう。横に3区画、縦に4区画を移動する必要があるので、最も短い道の長さは3+4=7区画、700メートルになります。

直線では500メートルでも、道を通れば700メートル。両方とも同じ地図から正しく計算した距離です。違うのは「どこを通ってよいか」という条件です。

別の施設のほうが、直線では遠くても歩くと近い

今度は診療所を(6,0)に置きます。家から右に6区画の場所です。

診療所までの直線距離は600メートル。図書館の500メートルより遠くにあります。でも診療所は同じ横の通り沿いにあるため、歩ける最短の道も600メートルです。

目的地 直線距離 縦横の道だけを歩く最短距離
図書館(3,4) 500m 700m
診療所(6,0) 600m 600m

直線で見るなら図書館が100メートル近く、歩く道で比べるなら診療所が100メートル近い、という逆転が起きます。

この架空の町の道路は格子状で、すべての通りを通れると仮定しています。実際の道には行き止まり、歩道橋、坂道、信号、通行できない区間などがあります。したがって、現実の徒歩経路が必ず「縦の差+横の差」になるわけではありません。

「近い」の意味を変えると、最短も変わる

もっと身近な例を考えてみましょう。Aルートは700メートルで信号が三つ、Bルートは800メートルで信号がありません。どちらが「近い」でしょうか。

距離だけならAです。しかし信号待ちが長ければ、Bのほうが早く着く可能性があります。また、車いすで移動するとき、段差のある短い道より、少し遠くてもスロープのある道が使いやすいかもしれません。小さな子と歩くときは、交通量や横断歩道の有無も大切になるでしょう。

つまり、人が「近くの施設」と言うとき、実際には最短距離だけでなく、時間や安全性、負担まで含めて判断している場合があります。これは数学の距離の定義があいまいなのではなく、判断の目的が違うのです。

急いでいる日は所要時間が重要で、散歩の日には景色のよい道を選ぶかもしれません。同じ地図でも「最もよいルート」の答えは一つとは限りません。

家の近くの地図で試す方法

実際に試すなら、家の近くで二つの目的地を決めます。ただし、交通量の多い道路へ出て実験する必要はありません。地図上で考えるだけでも十分です。

まず目的地までの直線を引き、次に地図上の歩道や道をたどります。利用する地図に距離計測機能がある場合は、直線距離と経路距離を比べてもよいでしょう。通行できるか不明な私道や危険な場所を通る想定にはしないでください。

「なぜこの道は遠回りになるのか」と考えたら、川、線路、大きな建物、渡れる場所の少なさなど、地図上の制約を探します。すると、単なる長さの計算が、町の構造を見る作業へ変わります。

もう一歩進めるなら、橋が一本増えた場合を想像します。二点の直線距離は変わりません。でも渡れる場所が増えれば、実際に歩ける最短距離は変わるかもしれません。これは、場所の位置を動かさずに、道のつながりだけを変える実験です。

方眼紙のルートで、もう一問

家を(0,0)、公園を(2,5)、お店を(4,2)に置いてみましょう。直線距離は、公園が√29区画(約5.39区画)、お店が√20区画(約4.47区画)です。縦横の道だけを通る最短距離は、公園が7区画、お店が6区画。こちらは、どちらで比べてもお店が近くなります。

いつも逆転が起きるわけではないところも、この実験の面白い点です。答えを最初から決めず、直線距離と道路距離をそれぞれ計算すると、「逆転する例」と「逆転しない例」の両方を作れます。さらに、道を一本通行禁止にしたらどうなるかを考えると、位置が同じでも移動のしやすさが変化することがよく分かります。

道を数字で表すのは、何の役に立つ?

方眼紙の上で使ったのは、三平方の定理と足し算だけです。でもその先には「点と点をどうつなぐか」という考え方があります。交差点を点、道路を線として考えると、目的地までの行き方を比べる問題になります。

地図アプリの詳しいアルゴリズムを知らなくても、なぜ「まっすぐ近い」と「道を通って近い」が一致しないのかは、自分で確かめられます。

次に「この店、地図では近いのに」と思ったら、地図が間違っていると考える前に、距離の種類を確かめてみてください。直線で結べることと、その線の上を歩けることは違います。問いに使われている『距離』をはっきりさせるだけで、正しい比較が始まります。

図書館・診療所の位置と道路は、この説明のために設定した架空の町です。

関連するOS・記憶学

「近い」を直線距離で測るか、実際の道の長さで測るかによって、行き先の選び方が変わります。この見方を別の場面にも広げたいときは、理解OS 第7章「比較理解」を読んでみてください。

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