感情OS 第18章|先延ばし対策

これだけ覚えよう

  • 「あとでやろう」と思ったとき、何が嫌で後回しにしたくなったのかを見る。
  • 面倒、失敗しそう、うまくできる気がしないなど、始める直前の嫌な気持ちから逃げたくて先延ばしすることがある。
  • 明日の自分も、今日より必ず元気で時間があるとは限らない。
  • 完璧にやろうとすると始める仕事まで重くなるので、「5分だけ」「最初だけ」でもいい。
  • 未来の自分へ全部渡さず、今日の自分が少しだけ続きを作っておく。

七月二十日の僕は、
信じていた。

八月三十一日の僕が、
全部やってくれると。

八月三十一日の僕は、
七月二十日の僕を
恨みながら、泣いていた。

明日から、やる。

来週から、本気を出す。

この言葉の奇妙なところは、
嘘をつくつもりが
まったくないことだ。

言った瞬間は、本気である。

なのに明日が来ると、
また明日から、になる。

意志が弱いからでは、
たぶんない。

先延ばしの正体を、
勘違いしているからだ。

■時計ではなく、気分の問題

先延ばしは長いあいだ、
時間管理の問題だと
思われてきた。

計画が下手だから。

怠け者だから。

でも、様子をよく見ると、
違う。

やるべきことは、
分かっている。

締切も、覚えている。

やった方が得なのも、
知っている。

それでも、
やろうとした瞬間、
小さく嫌な気分がよぎる。

面倒くさい。

失敗しそう。

うまくできる気がしない。

その嫌な気分から
逃げる手段が、
「後回し」なのだ。

そして逃げた瞬間、
ほっとする。

このほっとが
ご褒美になって、
先延ばしは癖になる。

敵は、時計ではない。

着手の直前にだけ現れる、
一瞬の嫌な気分である。

■未来の自分は、他人である

もうひとつ、
からくりがある。

「明日の自分」を
思い浮かべるとき、
いまの自分より
少し遠い相手のように
感じることがある。

研究でも、
未来の自分をどれだけ
現在の自分と
連続した存在として感じるかには、
個人差がある。

だから平気で、
仕事を押し付けられる。

明日の自分は、
早起きで、集中力があって、
疲れていない。

そんな人は、来ない。

明日来るのは、
今日と同じあなただ。

夏休みの宿題が、
毎年それを
教えてくれていた。

未来の自分は、
頼れる同僚ではなく、
今日のあなたの
被害者である。

そう思うと、
少しだけ、
今やる気になる。

■完璧の分だけ、重くなる

先延ばしの奥には、
完璧主義が
隠れていることも多い。

ちゃんとやりたい。

いいものにしたい。

中途半端に始めたくない。

真面目な願いだ。

でも「完璧にやる」ごと
持ち上げようとすると、
どんな仕事も、
夏休み全部の宿題の
重さになる。

書かれなかった
完璧な原稿より、
書かれた六十点の原稿の方が、
直せるぶんだけ先にいる。

完璧は、
仕上げの段階の目標でいい。

着手の段階では、
ただの荷物である。

■五分だけ、やってみる

嫌な気分が敵なら、
嫌な気分ごと、
小さく始めてしまえばいい。

合言葉は、
「五分だけやって、
やめていい」。

不思議なことに、
嫌な気分は、
始める前がいちばん大きい。

やり始めると、
思っていたより
嫌ではないことに気づく。

想像の中の宿題は
山だったのに、
開いてみたら、丘だった。

五分たって、
やめたくなったら、
本当にやめていい。

やめていい約束だから、
始められるのだ。

そしてたいてい、
もう少しやってしまう。

手が、
温まっているからだ。

■七月二十日に

八月三十一日の涙は、
七月の毎日の五分で、
ずいぶん減らせたはずだ。

未来の自分に
手紙を書くなら、
仕事の依頼書ではなく、
「少しやっておいたよ」
の一言がいい。

今日のどこかに、
五分だけ、席を作る。

明日のあなたは、
真っ白なページではなく、
書きかけの一行から
始められる。


使ってみる|先延ばしを7つに分ける

「先延ばしする人」と一括りにすると、対策も一つになりがちです。ここでは性格ではなく、後回しにした、その瞬間に何が起きていたかを見ます。

  1. 始め方が曖昧:最初の動作が決まっていない。→ 最初の一手を決める。
  2. 課題が不快・面倒:避けると一時的に楽になる。→ 量・難度・作業種類を変える。
  3. 失敗や評価が怖い:やらない間は結果が確定しない。→ 試す範囲や難度を小さくする。
  4. 完成条件が重い:「全部理解」「完璧に」が着手条件になっている。→ 終了条件を変える。
  5. できる気がしない:成功の見込みが低く感じる。→ 例題・足場・難度を変える。
  6. 未来へ押しつけやすい:締切が遠く、今日の理由が弱い。→ 中間締切か今日の終了条件を置く。
  7. 別の刺激や状態が勝っている:通知、スマホ、疲労、眠気、注意の分断。→ 環境・時間帯・連続時間を見る。

同じ人でも、数学の宿題では4、英単語では2、模試の直しでは3、ということがあります。先延ばしを性格にせず、その場で動かせる変数へ戻します。

一問だけ使う

「いま後回しにすると、何から少しだけ逃げられる?」

答えが出たら、7つのどこに近いかを見ます。原因を一つに決め切る必要はありません。次に小さく試す場所が見つかれば十分です。

この7分岐は医学的な診断ではなく、次に試す場所を選ぶための整理です。先延ばし研究では、課題の嫌悪感、課題までの時間、自分にできそうだという感覚、衝動性・注意のそれやすさなどが関連要因として報告されています。また、先延ばしを短期的な気分調整として捉える研究もあります。

参考:Steel (2007), Psychological Bulletin/Sirois & Pychyl (2013), Social and Personality Psychology Compass

先延ばしは、「やる気がない」と決める前に7方向に分ける

同じ「後でやる」でも、開始動作が曖昧な場合と、失敗が怖い場合では対策が逆になります。後回しにした瞬間に一番近いものを1つ選び、意志ではなく摩擦の場所を見ます。

1. 始め方 最初の動作が決まっていない。→ 30秒でできる開始動作を置く。

2. 課題の不快さ 退屈・面倒・嫌な気分を避けたい。→ 一番嫌な部分を短い単位に切る。

3. 失敗・評価 うまくできない、見られるのが怖い。→ 練習版・非公開版で一回試す。

4. 完成条件 どこまでやれば終わりか分からない。→ 終了条件を一行にする。

5. 成功見込み やっても終わらない・無理そうに見える。→ いま終えられる最小単位へ下げる。

6. 未来への先送り 明日の自分なら余裕があると見積もる。→ 今日5分だけ続きを作る。

7. 誘惑・状態 スマホ、眠気、疲れ、場所の影響が強い。→ 意志より先に環境か時間帯を1つ変える。

例:「英単語をやる」を開始動作まで小さくする

「英単語を30分やる」では動けない日でも、「単語帳を開いて昨日の10語を隠して言う」なら始められることがあります。これで始まるなら、問題は勉強全体への動機より開始直前の摩擦だった可能性が上がります。

先延ばしではない場合

始められるが、計画どおり進まず後半が崩れるなら勉強計画が崩れるときの見直し方が近いです。眠気や疲れで続かないなら長時間勉強できないときの見直し方を先に使います。

分類は診断名ではなく、次にどこを動かすかを決める仮説です。2〜3回試して変化がなければ、別の分岐を疑います。

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