感情OS 第26章|再挑戦設計

これだけ覚えよう

  • うまくいかなかったら、「自分にはできない」で全部まとめず、何がうまくいかなかったか分けてみる。
  • 凧が上がらなかったなら、糸・尾・風・場所・飛ばし方など、考えられる理由はいくつもある。
  • 自分で変えられるものと、風のように自分では変えられないものを分ける。
  • 次は、できれば一つだけ変えて、小さく試す。そうすると何が効いたのか分かりやすい。
  • 再挑戦は、同じことをもう一度我慢してやることではない。前回から一つ学び、次の試し方を変えること。

上がらなかった凧

河原で、凧が上がらなかった。

三時間いた。走った。走ってから離す、を三十回はやった。上がりかけて、落ちる。上がりかけて、落ちる。

帰りの土手で、もう二度とやらない、と思った。

そのときの言い方は、正確ではない。

思っていたのは、凧のことではなかった。こういうことが、自分にはできない、のほうだった。三時間ぶんの疲れが、こういう人間だ、という形になって出ていた。

その日は、それ以上考えなかった。

考えなかったのが、たぶんよかった。

数日して、凧を広げた。

上がらなかった理由を、一つに決めない。

糸が短かったかもしれない。尾が軽かったかもしれない。あの日は風がほとんどなかった。走り方も、離す高さも、たぶん違っていた。あの河原は、堤防のせいで風が斜めに入る。

五つある。

このうち、こちらの側にあるのは、糸と尾と離し方だ。風とあの河原は、こちらの側にない。

ひとまとめにすると、どれも直せなくなる。全部が自分のせいに見えるか、全部が運のせいに見えるか、どちらかになる。

一つだけ変える。

尾を、二十センチ足した。

二つ以上変えなかったのは、次に上がったとき、何が効いたのか分からなくなるからだ。

そして、三時間はやらない。

三十分だけにする。同じ河原の、風の入りやすい端のほうで。

小さく戻る、というのは、志を下げることではない。次に何を変えるかが分かる大きさに、一回を切ることだ。

三十分やって、上がらなかった。

けれど、尾を足したぶん、落ち方が変わった。前は真横に倒れていたのが、今回は後ろへ引かれて落ちた。

次は、糸を長くする。

上がっていない。悔しさも、あの日のまま残っている。

残ったまま、凧を巻いて、風の向きを見ている。


使ってみる|「1変数実験」にする

「一つだけ変える」を、勉強でも使える形にします。目的は研究室のような厳密な実験ではありません。何を変えたら結果が動いたのかを、自分で見つけやすくするための小さな試し方です。

  1. 見る結果を一つ決める:始めるまでの分数、翌日に出た英単語数、10問中の自力正解数など。
  2. 今の条件を一度記録する。
  3. 動かせる変数を並べる。
  4. 一番安く変えられる一つだけを選ぶ。
  5. ほかの条件はできるだけ同じにする。
  6. 2〜3回試して結果を見る。
  7. 残す・戻す・次を試す。

勉強で動かしやすい7つの変数

  • 時間:時間帯、連続時間、休憩
  • 開始:最初の動作、始める合図
  • 課題:量、難度、順序
  • 入力:説明、例、文脈
  • 想起:隠し方、出す方向、回数、間隔
  • 環境:場所、通知、スマホ、音
  • 終了:何ができたら終わりか、どこで止めてよいか

例|英単語

同じ20語、同じ時間帯は固定する。変えるのは「見る回数」ではなく、日本語から英語を何も見ずに出す回数だけ。翌日に何語出たかを見る。

例|勉強を始めるまでが長い

20時、同じ机、数学は固定する。変えるのは最初の動作だけ。「数学を勉強する」から「昨日の×問題を1問開く」へ変え、着手まで何分かを見る。

一回で結論を出さない

一度うまくいっただけで、「これが原因だった」とは決めません。その日の体調や問題の難しさでも結果は動きます。2〜3回見て、それでも良さそうなら残します。

診断する → 一つ動かす → 結果を見る。これを繰り返すと、「自分に合う方法」を誰かからもらうだけでなく、自分で探せるようになります。

再挑戦するときは「1変数実験」にする

うまくいかなかったあとに、時間も教材も場所もやり方も全部変えると、次に良くなっても何が効いたのか分かりません。そこで2〜3回だけ、一つの変数だけを変えて観察する形にします。

時間 いつ・何分やるか

開始 最初の動作は何か

課題 量・難度・単位はどうか

入力 読む・見る・聞くのどれか

想起 見ずに出す回数・方法はどうか

環境 場所・通知・道具はどうか

終了条件 何が終われば一回完了か

例:計画が崩れるなら「終了条件」だけ変える

昨日は「数学を1時間」と置いて止まった。今日は時間帯も教材もそのままで、「例題5問を解き、間違い2問だけ直したら終わり」に変える。これで終えやすくなれば、少なくとも次の候補として終了条件を残せます。勉強計画が崩れるときにも同じ考え方を使えます。

1変数実験が向かない場合

安全や健康に関わる問題、条件を揃えられない一回限りの出来事、他人の反応だけで結果が決まる問題では、この方法だけで原因を特定しようとしません。また、そもそも開始前に毎回止まるなら、変数実験より先に先延ばしの7分岐で摩擦の場所を絞ります。

記録は4行でいい

困ったこと:____

今回だけ変える変数:____

2〜3回の結果:____

次:残す / 戻す / 別の1変数を試す

これは原因を厳密に証明するためではなく、問題を一度に全部いじらず、次の一手を学習できる大きさにするための方法です。

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