感情OS 第7章|恥の無効化

これだけ覚えよう

  • 恥ずかしい出来事が一つあると、その出来事が「自分全部」のように広がることがある。
  • たとえば図書館で20秒恥ずかしい思いをしただけなのに、図書館そのものへ行けなくなることもある。
  • そんなときは、「何が起きた?」「どのくらいの時間?」「誰が見ていた?」と、実際の大きさに戻してみる。
  • 「知らなかった」「間違えた」という出来事と、「自分はダメな人間だ」は別の話。
  • 恥ずかしさが残っていてもいい。そのまま、もう一度その場所へ行ったり、やりたいことをしたりできる。

二十秒

図書館の返却カウンターで、名前と、延滞の日数を、はっきりした声で言われた。

三か月前のことだ。

言った人に悪気はなかった。手続きの言葉として、そう言っただけだ。

後ろに、三人並んでいた。

そこからしばらく、あの建物の前を通れなかった。通ろうとすると、耳のあたりが熱くなる。本を借りたいのに、借りに行けない。

熱くなっているのは耳で、思い出しているのは二十秒で、避けているのは建物ぜんぶだ。

二十秒が、建物ぜんぶに広がっている。

数えてみる。

あの場所にいた時間は、二十秒。三か月のうちの、二十秒。

聞いていたのは三人。その三人が、いま、こちらの名前を言えるかどうかは分からない。たぶん言えない。並んでいた人の顔を、こちらも覚えていない。

そして、あの日は、引っ越してきて初めてカウンターへ行った日だった。返却期限が二週間だと知らなかった。前の町では三週間だった。

知らなかったことと、こちらがどういう人間かは、別のことだ。

分けてみたところで、耳はまだ熱い。

熱いまま、先週、行った。

カウンターには別の人がいて、こちらの顔を見ても何も起きなかった。三か月前のことは、この建物のどこにも残っていない。残っているのは、こちらの中だけだ。

残っていることを、なかったことにはしない。

本を三冊借りて、返却日を確かめて、出た。

出てから、少し歩いて、まだ耳が熱いことに気づいた。

熱いまま、三冊持って帰った。


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