未来の自分に「ちゃんと伝わるメモ」を書けますか? 忘れたときの読み手から考える

買い物から帰って、机の上のメモを見つけました。そこには「いつものを2つ」「木曜までに確認」「あれを持っていく」とだけ書かれています。書いたときには分かっていたのに、数日後には何のことか思い出せない。そんな経験はありませんか。

この問題は、字をきれいに書けば解決するわけではありません。メモの内容が書いた本人だけが知っていた状況に依存しているからです。そこで今回は、未来の自分を「事情を知らない初対面の読み手」として扱う、小さな実験をしてみます。

1日たつと消えてしまう「今だけの知識」

月曜の夕方、家庭でこんな会話をしたとします。

「木曜の集まりに、折り紙を20枚持っていくんだって」

「じゃあ、水曜の夜に準備しておこう」

会話した直後なら、メモに「水曜・20枚」で十分と思うかもしれません。しかし、同じ週に学校の提出物や仕事の予定が増えたら、その20枚が何の枚数だったのか分からなくなる可能性があります。

メモを書くときには、記憶の中に会話全体が残っています。読むときには、それを忘れていることがあります。この違いに気づかずに書くと、未来の自分が最も必要としている説明を省いてしまうのです。

そこで「水曜の夜、木曜の集まり用の折り紙を20枚、机の引き出しから用意する」と書き換えます。文字数は増えますが、読むときに必要な背景は減りました。ここでは文章の短さより、後から行動を決められることが大切です。

読む人が忘れているものを三つ数えてみる

同じメモでも、読み手がどこまで知っているかによって適切な書き方は変わります。

例えば「明日、駅前で14時」と書いたメモには、すでに明日が何月何日か、駅前のどこか、誰と会うのか、何のためなのかが省かれています。書いた日のうちに見返せば十分かもしれません。でも来週開いたら「明日」の日付は分かりません。

未来の読み手が忘れそうな情報を、次の三つに分けて考えます。

  • 対象:何を持っていく、買う、調べるのか。
  • 時点と場所:いつ、どこで必要なのか。
  • 終了条件:何をしたら終わったと言えるのか。

これはすべてのメモへ必ず三つ書けというルールではありません。たとえば「卵を買う」という買い物メモなら、そのままで機能するでしょう。逆に「資料を確認」なら、どの資料のどの部分まで見るのかを足したいかもしれません。メモに足す情報は、忘れたときに困ることから決めます。

二つのメモを、次の日に読んでみる

紙を二枚用意して、明日やる小さな用事を一つ選んでください。左側には、いつもの自分の書き方でメモします。右側には、事情を忘れた人でも動けるように書きます。

例として「プリント」だけと、「金曜に提出する学校の申込書。木曜夜までに保護者欄を記入し、かばんに入れる」を比べてみましょう。翌日、まず左の紙だけを見て、何をどうするかを説明してみます。言葉に詰まったら、どの情報を思い出そうとしたかを記録します。

右の紙はそれを確認したあとで読みます。右も説明不足かもしれません。例えば「どこに保管したか」が書かれていなければ、用紙が見つからない場合もあります。完全なメモを作るのではなく、実際に読み返して足りなかった情報を見つけることが実験の目的です。

この実験は、ひと晩置かずに友達や家族へ読んでもらうこともできます。ただし個人情報や予定の詳細を第三者へ見せたくないときは、架空の用事で試してください。

予定だけでなく、考えごとも残せる

「迷ったけれど、こっちに決めた」という記録は、あとから読むと理由が分からなくなることがあります。例えば、文房具を選ぶときに安い方ではなく書きやすい方を買ったのなら、その判断基準も一言残しておけます。

「AではなくBを選んだ。毎日使うので、値段の差より手になじむ方を優先した」というメモです。後日Bに不満が出ても、なぜ選んだのかが分かります。すると「前の選択は失敗だった」という感想だけではなく、「優先した基準が今の用途に合わなくなったのか」を見直せます。

記憶学の実践として考えるなら、これは何でも詳しく保存する話ではありません。再び必要になる場面を想像し、思い出すための手がかりを置くという使い方です。必要な情報が少ない用事には短いメモでよく、判断の理由を残したい出来事には数行あってもよいのです。

メモを長くしても、読みづらければ困る

ここまで読むと、すべて詳細に書いた方がよいと思うかもしれません。しかし、買い物リストに一品ごとの長い理由が並んでいたら、店頭では探しづらくなります。

用事が多いなら、最初の一行に「何をするか」を置き、必要な説明だけその下へ書くと扱いやすくなります。例えば「木曜:折り紙20枚を準備」「引き出しから取り出し、透明の袋にまとめる」。要点と補足を分けるだけで、使う場面に合わせて読めます。

また、メモそのものを探せない問題もあります。スマートフォンのメモ、机の付箋、カレンダーのどれに置くかを毎回変えると、書いたことを忘れてしまう場合があります。これは文章の内容とは別の問題です。必要なときに開ける場所へ置いておく工夫も欠かせません。

次にメモを書くとき、未来の自分がその場の会話を覚えていないと仮定して、たった一つだけ情報を足してみてください。今の自分にとって当たり前のことが、未来の自分にとって一番役立つ手がかりになるかもしれません。

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未来の自分が事情を忘れても行動できるように、思い出すための手がかりをメモに残します。続きは記憶学 第4章「取り出す」で、記憶を取り出すときの手がかりについて考えられます。

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