
駅前の店で買った飲み物が、郊外の店ではもっと安かった。商品名も内容量も同じなら、高い方の店が不親切なのでしょうか。実際には、値段の違いだけではその理由は決まりません。店ごとの費用、買いに来る人の事情、ほかの店との競争、売り方など、いくつもの条件があります。
「同じ物なのだから同じ値段であるべき」と決めつける前に、店が何にお金を使い、客が何に価値を感じているかを分けて考えてみましょう。
商品の仕入れ値と、店で売るための費用は違う
架空の2店で、同じ飲み物を1本100円で仕入れたとします。A店は駅前にあり、家賃や人件費などの毎月の固定的な費用が30万円。B店は郊外にあり、同じ費用が15万円だったと仮定します。どちらも月に5,000本だけを販売し、ほかの条件は同じだと単純化します。
飲み物の仕入れ代はどちらも5,000本×100円=50万円です。そこへ固定的な費用を足すと、A店は80万円、B店は65万円になります。これを5,000本で割ると、1本あたりの費用はA店160円、B店130円です。仕入れ値が同じでも、店を維持する費用が違えば、必要な売値が違うという可能性が見えてきます。
この計算は現実のコンビニの原価や利益率を示すものではありません。家賃や人件費の負担が、商品一つあたりの計算にどう影響するかを示すための架空例です。
便利な場所は、時間を節約する商品でもある
店の場所も、買う人にとって意味があります。駅前で電車を待つ5分の間に買える飲み物と、郊外まで歩いて買いに行く飲み物では、買うための手間が違います。
例えばA店の飲み物が180円、B店が150円で、B店へ行くには往復20分余分に必要だとします。差額は30円です。必要な時間と労力をどう感じるかによって、A店を選ぶこともB店を選ぶこともあります。もちろん、遠くまで移動するだけでなく、ついでに別の用事を済ませるなら話が変わります。
ここで気づきたいのは、同じ飲み物でも「買う体験」は同じではないことです。駅の改札内にある、遅い時間まで営業している、すぐ手に取れるといった条件が、値段に結びつく場合があります。便利なら何円高くてもよいという意味ではありません。客がその便利さにどこまでお金を払うかは別の問題です。
仕入れ値が同じでも、安く売る理由はある
先ほどの模型には、販売数が同じという仮定がありました。でも現実の店は同じ本数を売るとは限りません。1本あたりの利益を小さくしても、たくさん売ることで全体の利益を増やそうとする店もあります。
例えば、1本あたりの仕入れや追加の販売費用が100円の商品を150円で100本売れば、そこから得られる粗い利益は(150−100)×100=5,000円です。140円で160本売れるなら(140−100)×160=6,400円です。後者の方が単価は安いのに、粗い利益は増えています。
しかし「10円安くすれば必ず160本売れる」という証拠はありません。値下げしても客が増えなければ利益は減るかもしれません。大切なのは、売値だけでなく、何本売れると考えているかを一緒に見ることです。固定費や廃棄、在庫などを省いた計算なので、これだけで事業全体の利益は決まりません。
ほかの店が近くにあるとどうなる?
A店のすぐ隣に同じ飲み物を安く売る店が開いたとします。客が簡単に移動できるなら、A店も値段を見直す理由が生まれます。一方、近くに別の店がなく、時間のない人ばかりが利用する場所なら、競争の条件は違います。
ただし、競争相手が少ない場所ほど必ず高いとは限りません。自治体の取り決め、チェーン店の共通価格、商品の仕入れ条件、地域の購買力などの理由で、値段が同じになることもあります。一つの理由だけで、現実のすべての値札を説明するのは難しいのです。
店が値段をつけるときは、費用がいくらかと、客がその値段で買うかの両方が必要です。費用が高くても、客が買わない値段では売れません。反対に費用が低くても、競争や売り方によって高く設定される場合もあります。
自分で試す:三つの値札を分解する
家の近く、駅前、ネット通販で同じ規格の商品を見つけたと想像してください。Aは160円、Bは190円、Cは150円だとします。どこが一番安いかは、商品の値札だけならCです。でもネット通販に送料400円が必要で、一つだけ買うなら合計550円です。
ここで「1個買う場合」と「10個まとめて買う場合」を比べてみましょう。ネット通販の送料が一注文400円で変わらないなら、10個の総額は150×10+400=1,900円で、1個あたり190円です。A店の10個は1,600円ですからA店の方が安くなります。ここでは移動費や時間、商品の保管、賞味期限をまだ考えていません。
さらにA店の往復に交通費が500円かかる場合はどうでしょう。最初の「一番安い店」は、買う数と移動条件によって入れ替わります。比較に入れる費用を増やすほど、値札だけの順位が変わる可能性があります。
どの値段が「適正」かは、別の問い
価格の理由を説明することと、その価格が公正かどうかを評価することは同じではありません。災害時の生活必需品の値上げ、公的サービスの料金などは、競争や費用だけでなく、社会のルールや公平さも関係します。
「なぜ高い?」に経済的な理由を考えた後は、「それでよい?」という別の問いを立てても構いません。ただし、二つを混ぜてしまうと、何を事実として確かめたのか分からなくなります。
まとめ
同じ商品でも、売る場所の費用、買う人の時間、売れる本数、競争条件によって値段が違うことがあります。高い店にも安い店にも理由が一つだけあるとは限りません。値札を比べるときは、商品の価格と、手に入れるまでの費用や手間を分けて考えると、より納得して選びやすくなります。

