競争相手が値下げしたら、こちらも下げるべき? 2店の選択を数字で考える

向かい合う二つのお店が、同じような商品を売っています。A店が値下げしたら、B店はどうするのがよいでしょう。「負けないように値下げする」が正しそうにも見えますが、売れる数が変わらなければ利益が減るだけかもしれません。

商売では、自分の選択によって相手の行動が変わり、相手の選択によって自分の結果も変わります。このように、相手の判断を考えながら選ぶ状況を、ゲーム理論という見方で整理できます。難しい数式がなくても、二つの店の数字を書き並べるところから始められます。

まず、値段と利益を別々にする

ここからは架空の店の模型です。A店とB店は、それぞれ「通常価格」か「値下げ」の二つだけを選べるとします。二つの店が通常価格なら、一週間の利益は両店とも各5万円。片方だけ値下げすると、安くした店が6万円、通常価格の店は2万円。両方が値下げすると、どちらも3万円になると仮定します。

A店の選択 B店の選択 A店の利益 B店の利益
通常価格 通常価格 5万円 5万円
値下げ 通常価格 6万円 2万円
通常価格 値下げ 2万円 6万円
値下げ 値下げ 3万円 3万円

これは実際の小売店のデータではありません。選択が相手の結果に影響する様子を見えるようにしただけです。この数字の条件では、両店が通常価格なら合計10万円を得ます。それなのに、個別の店には値下げしたくなる理由があります。

相手が通常価格なら、自分はどうする?

B店が通常価格だと分かっているとき、A店は通常価格で5万円、値下げで6万円です。A店だけを考えるなら、値下げする方が利益は1万円大きくなります。

今度はB店が値下げすると分かっている場合を考えます。A店が通常価格のままなら2万円、値下げすれば3万円です。こちらでも値下げが1万円有利です。

同じ計算はB店にも当てはまります。すると、両店とも「相手がどちらを選んでも、自分は値下げしたい」と判断することになります。その結果、両店値下げで各3万円という組合せに落ち着く可能性があります。各5万円だった組合せより、両店とも利益が小さくなっているのが不思議なところです。

全体に良い選択と、自分だけに良い選択がずれる

この模型では、全体の利益が大きいのは両店が通常価格を選ぶときです。けれども、A店の担当者が「うちだけ通常価格のままにしたら相手に客を取られる」と心配することも理解できます。

ここで、二つの店が必ず値下げ合戦になると断定するのは早いでしょう。実際には商品の質、店の立地、仕入れ原価、常連客、在庫、販売期間、広告などが違います。また、競争相手同士が価格を示し合わせる行為は法令上の問題となり得ます。今回の表は、店舗に価格協定を勧めるものではありません。あくまで個別の選択が重なったときに何が起こり得るかを学ぶ例です。

数字を変えたら結論は変わる?

では、両店が値下げしたときのA店の利益を3万円から1万円へ変えるとどうでしょう。B店も同じ条件だとします。相手が値下げするとき、自分が通常価格なら2万円、値下げなら1万円です。先ほどと違って通常価格の方が有利になりました。

この条件なら、相手の選択によって自分の最善手が変わります。「値下げすべき」という一言の答えはなくなります。相手が通常価格のときは値下げで6万円を得られても、相手が値下げしたときは通常価格で2万円を守る方がよくなります。

わずか一つの数値を変えただけで、判断の仕方が変わりました。これが、商売のニュースを読むときに「値下げした」「競争が激しい」という言葉だけでは十分でない理由です。実際の顧客数や利益がどう変わったかを見なければなりません。

同じ値段で勝負しない方法もある

最初の表は価格の二択しかありませんでした。しかし店は、品揃えを変える、予約できるようにする、買い物の待ち時間を減らすなど、価格以外でも違いを作れます。

例えばB店が商品をすぐ受け取れる工夫をして、急いでいる客から選ばれるようになれば、A店とB店の客が全員「最も安い方」へ移るとは限りません。同じ商品を売っていても、場所やサービスまで含めると、店同士がまったく同じものを提供しているわけではないからです。

もちろん改善にお金がかかり、かけた費用を回収できない場合もあります。「差別化すれば必ず利益が増える」のではなく、どういう客がどんな便利さに価値を感じるかを考える必要があります。

自分で試す:二つの店の立場を交代する

紙に表を写して、A店の担当者になってみましょう。先にB店がどう動くと予想するかを書き、その予想に基づいて選びます。次にB店の担当者の立場に替わり、A店の選択を見ながら判断してください。最後に両店の利益と合計利益を比較します。

次は「片方だけ値下げした店の利益」を6万円から4万円に変えます。値下げの魅力が小さくなると、判断はどこで変わるでしょうか。商品の売上と利益が同じものだと勘違いしないよう、表にはあくまで「利益」と書いてあります。数字を動かして気づいた条件が、考える価値のある部分です。

「相手が動く」という予想は、予想にすぎません

値下げ前に「相手も必ず値下げする」と考えても、それは観測した事実とは違います。相手が在庫を減らしたいのか、利益率を守りたいのか、価格以外の特徴で選ばれたいのかは分かりません。ゲーム理論の表は、相手の行動を当てる魔法ではなく、仮定した行動ごとに自分の結果を比べる道具です。だから表を作るときは、最もありそうな一つだけでなく、別の選択をした場合も必ず書いてみましょう。

「何もしない」という選択肢を入れてみる

今回の表では通常価格と値下げの二択だけでした。けれども本当の店なら、売る商品そのものを見直す、営業時間を調整する、新商品の紹介を増やすといった方法もあります。二択の表で見つけた結論を、そのまま現実の唯一の答えにしないことが大切です。

例えば値下げする代わりに、客が商品を選びやすい案内を置くとします。案内を作るための費用と、来店客が増える可能性を別に考えます。競争相手が値下げしたからといって、こちらも必ず価格だけで応じなければならないわけではありません。最初の問題を「どちらの値段にする?」ではなく「どうすれば客に選んでもらえる?」と置き換えると、新しい選択肢を探せます。

まとめ

競争相手が値下げしたとき、同じ値下げをするのが最善とは限りません。相手が何を選ぶか、自分の利益が各場合でいくらになるかを並べると、一見単純な値下げ競争の仕組みが見えてきます。相手の事情を考えることは、相手と同じ行動をすることとは違うのです。

参考資料

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