平均約36万円でも、多くの人は36万円未満? 7人の架空の町で中央値を考える

「この町の月収の平均は約36万円です」と聞いたら、どんな暮らしを想像しますか。多くの人が月に36万円ほど受け取っている、という印象になるかもしれません。しかし、平均値は、一番多い人が持っている数字ではありません。

ここでは統計調査の実データを使わず、7人だけの架空の町を作ります。数字を少し動かして、同じデータから別の見方ができることを確かめてみましょう。実際の日本の賃金や世帯収入について述べる記事ではありません。

7人の収入を一列に並べる

架空の町の7人が、ある月に受け取った額を次のように決めます。単位は万円です。

人 A B C D E F G
月の額(万円) 20 22 24 26 28 30 100

全員の額を合計すると250万円。7人で割ると約35.7万円です。ところが7人のうち、35.7万円を超えているのは100万円のGさん一人だけ。6人は平均より下にいます。

計算間違いではありません。平均は、合計を人数で均等に分けたとしたら一人当たりいくらになるか、という値です。高い数字が一つあると合計が増えるため、平均も引き上げられます。架空の町では、100万円という一人の数字がその役割を果たしています。

「平均以下が6人だから、この町の統計は信用できない」と判断する必要もありません。平均は正しく計算されています。ただし、知りたかったことが「真ん中あたりの人はいくらか」なら、別の数字が向いているのです。

では、中央値はいくらでしょう

小さい順に並べたとき、真ん中に位置する値を中央値と呼びます。7個のデータなら4番目です。今回の並びは20、22、24、26、28、30、100。中央値は26万円です。

平均35.7万円と中央値26万円には約9.7万円の差があります。どちらかが間違っているわけではありません。「全体を均等に分けた値」を見たいなら平均、「順番に並べた中央」を知りたいなら中央値です。

ここでGさんの100万円を200万円へ変えたとします。ほかの6人は変わりません。新しい合計は350万円、平均は50万円へ上がります。一方、並べたときの真ん中は変わらず26万円です。

一人の高い数字が100万円増えただけで平均は約14.3万円変わりましたが、中央値は変わりません。この実験は、どんな外れ値があっても中央値が万能だと言うためではありません。その値が何に影響されやすいかを確認するためのものです。

平均と中央値のどちらを使えばいい?

答えは、何を知りたいかで変わります。

例えば架空の町の7人が共同で支払う費用について、一人当たりどれほどの負担になるか、全員の額を人数で割ってみるなら平均の考え方が役立ちます。ただし、実際の負担能力が平均通りということではありません。

一方、「町の真ん中の人に近い暮らし」を知りたいなら、中央値が一つの手掛かりになります。それでも中央値だけでは、20万円の人と26万円の人の違いも、26万円と100万円の隔たりも見えません。数字を一つにまとめると、必ず失う情報があります。

同じ平均26万円でも、全員が26万円の町と、何人かが低く何人かが高い町では、暮らしの実態は違うでしょう。平均と中央値を二つ並べても、個々の違いが完全に分かるわけではありません。

「典型的」を数字で一つに決める難しさ

「この町の典型的な人」とは誰でしょう。真ん中のDさんでしょうか。20万円のAさんと100万円のGさんも、町にいる実在の一人として同じ重みで数えられています。

見たい目的が変われば、必要な集計も変わります。例えば生活の苦しさを調べたいなら、月収だけでなく家族の人数、住居費、税や社会保険料、手元に残る額など、別の条件が必要になります。今回の表は、月に受け取った額を架空に並べただけであり、そのまま生活水準を示すものではありません。

また7人しかいない町の話を、日本全国の状況だと一般化してはいけません。母集団の違いも大切です。「働く人の平均」と「世帯の平均」は、何を一件として数えるかが異なります。同じ言葉に見えても、調査対象の単位が変われば比較は難しくなります。

新聞の数字を読むときの小さな実験

次に「平均○万円」という記事を読んだら、三つの質問をしてみてください。「誰を数えた平均か」「高い値や低い値がどのくらいあるか」「中央値や分布は示されているか」です。

今回の架空データなら、平均が35.7万円という一行の情報に、中央値26万円と7人の表を足すだけで、印象は変わりました。データを増やしていないのに、見方を変えただけで理解が深まったのです。

理解OSの「全体→部分」「比較理解」を、数字の読み方に当てはめるとこうなります。全体を一つの平均に縮めた結果と、その中身の個々の値を行き来する。どちらか一方を選ぶより、二つを確かめるほうが判断を誤りにくくなります。

まとめとして覚えておきたいのは、平均は正しいのに、平均から思い浮かべた人物像が間違っていることはあり得る、という点です。 一つの数字を知ったら、その数字が何をまとめ、何を隠しているのかまで見てみましょう。

この7人の収入はすべて説明のための架空データです。現実の所得分布や生活状況を示すものではありません。

操作して確かめる

記事の内容を自分で動かして試すには、平均と中央値の実験を使えます。

関連するOS・記憶学

平均という一つの数字から元の7人の値へ戻ると、見えなくなっていた偏りが分かります。この見方を別の場面にも広げたいときは、理解OS 第13章「全体→部分」を読んでみてください。

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