
雨の日に上着へ水を落とすと、玉のような水滴が転がることがあります。これを見て「この服なら大雨でも絶対に濡れない」と思うかもしれません。しかし、表面で水をはじくことと、生地の裏まで水を通さないことは別の性能です。さらに、内側が汗で濡れないためには、もう一つ考えるべき働きがあります。
水滴が転がることと、水が通らないこと
撥水(はっすい)は、生地の表面で水をはじきやすくする性質です。水滴が丸くなって転がれば、表面に水が広がりにくくなります。一方、防水は、外から加わる水が生地の裏側へ通り抜けにくい性質を指します。両者は関係しますが、同じ試験で測るものではありません。
例えば、最初は水滴が丸く見える布でも、長く水が押し当てられると裏側へ染み出す場合があります。逆に表面が濡れて見えても、内側の防水膜が水を止めている製品もあります。見た目の水玉だけで防水性を判断しないことが大切です。
縫い目から水が入る可能性もあります。生地の性能が高くても、縫い合わせ部分を適切に処理していなければ雨具全体の防水性は下がります。生地の性能と完成品の性能を分けて見ましょう。
「耐水圧」という数字は何を比べている?
耐水圧は、生地へ水圧をかけて裏側へ水が通る条件を調べる指標です。一般的にmmという単位が用いられ、水柱の高さに相当する圧力で表すことがあります。例えば10,000mmは、およそ10mの水柱に相当する圧力の尺度です。雨の量をそのままmmで表した数字と混同してはいけません。
モンベルの素材説明でも、表面の撥水性と生地が水を通さない防水性を区別し、防水性能を耐水圧で示しています。だからといって、耐水圧の数だけで着心地が全部分かるわけではありません。縫い目、フード、袖口の形、使い込んだ状態などが関係します。
店頭の数字を見るときは「どんな試験で測った布の値か」「衣服全体ではどう設計されているか」を確認しましょう。数字が大きければあらゆる状況で完璧とは限らないのです。
雨は防げても、汗で内側が濡れることがある
通学や山歩きで体を動かすと、体から水蒸気が出ていきます。外側の雨を止めることだけを考えた素材では、衣服の中に湿気がたまって蒸れる場合があります。そこで、外からの液体の水は通しにくく、内側の水蒸気は外へ逃がす「防水透湿性」という考え方が生まれます。
水蒸気を外へ逃がす透湿性と、風を通す通気性も同じ言葉ではありません。空気が大量に流れなくても、水蒸気が素材を移動することはあります。反対に、蒸発した水分が外へ出る速さは外気の湿度や気温などの条件で変わります。
長時間の行動で肌着が湿った場合、防水膜が壊れたとすぐ決めるのは早計です。雨の侵入なのか、内側で発生した汗や結露なのか、まず現象を分けます。
家庭で確かめられる範囲と注意点
撥水を見るだけなら、使ってよい布の切れ端に少量の水を一滴落とし、広がり方を比べられます。水滴が丸いか、布全体へ浸透するかを写真で記録します。ただし、これは生地の長時間の防水性を測る試験ではありません。傘や高価な雨具をわざと浸水させて傷める必要はありません。
強く水を押しつけたり、表面をこすったりしたときに水の様子が変わることがあります。これは撥水加工の状態、布の種類、汚れなどが違うためかもしれません。新品と古い服では表面の加工が変化している可能性があります。
防水性や透湿性は専用の試験条件で評価されます。家庭で目視した結果に「耐水圧○○mm相当」と勝手に数字を付けないでください。測れたことと推測にとどまることを分けて記録します。
雨具の選び方を三つの問いにする
第一に、どんな雨の中で何分使うのか。第二に、歩く・走るなど活動量はどれくらいか。第三に、かばんや膝にかかる圧力、縫い目の構造など、弱点になりそうな場所はどこか。こうした問いを立てると、単なる「撥水加工あり」の宣伝だけでは足りないと分かります。
通勤用の短時間の上着と、長時間雨に当たるアウトドア用の雨具では、必要な性能が違います。撥水を回復させるためのお手入れも製品ごとに違うため、洗濯表示とメーカーの説明を優先しましょう。熱を加える方法がすべての衣類に適するわけではありません。
雨具の性能を一つの「水に強い」という言葉で済ませず、撥水・防水・透湿に分けてみると、どの不快さや故障を防ぎたいのかが明確になります。三つを区別することが、雨具を選び直すときの実用的な判断材料になるのです。
雨に濡れたベンチに座ると何が起きる?
上から雨粒が当たるときと、濡れたベンチへ座って生地が押しつけられるときでは、水にかかる圧力の条件が違います。水が表面に当たるだけでなく、一定の力で生地へ押し込まれる可能性があるからです。雨をはじいて見える上着でも、重いかばんの肩ひもが押す場所や膝の部分などは条件が厳しくなる場合があります。
雨具を比較するときに「普通の雨では濡れなかった」と記録するだけでは不十分なことがあります。使った時間、体の動き、荷物の有無、濡れた場所も記録すれば、なぜ結果が違ったかを考えられます。ただし、家庭で強い圧力をわざとかけるような試験は、製品を傷めるため不要です。
表地がびしょ濡れでも膜が働く場合
防水透湿素材の表側は、撥水性が弱まると水が広く付着した状態になることがあります。その状態では、表側の濡れ方や水蒸気の移動が変わり、着心地も悪くなる場合があります。しかし、そのことと防水膜に穴が開いていることは同義ではありません。外側の表面状態と、内側の膜の働きを別々に確認する必要があります。
購入後のお手入れでも、撥水の回復と防水膜の修理は別の問題です。製品の洗濯や再加工の注意に従い、どの性能を回復させようとしているのかを明確にすると、使い捨てず長く活用する判断にもつながります。
水を通さないことを重視していても、衣服の内側がいつも乾いた状態に保たれるとは限りません。汗をかく量が多いと、透湿性があっても移動が追いつかない場合があります。濡れの原因を雨と汗に分け、どこから水が入ったのか観察することが、製品の故障と使い方の問題を見分ける手がかりになります。

